2019
7/17
ステアリングコミッティがうまくいかない
「ステコミのやり方を指導してほしい」
ある支援先の常務から依頼がありました。
そのプロジェクトは特に田村の支援対象ではなかったのですが、お困りの様子だったので、とりあえず確認することに。
早速、プロジェクトマネージャーのAさんにヒアリングしました。
まずステアリングコミッティ(以下、ステコミ)のアジェンダを確認すると、進捗・課題・リスク・コストの報告とのことで、問題はない様子。
ところが、お伺いしてみると、Aさんが一生懸命に説明しても、多くの指摘を浴びるそうです。時間内に終わらず、常務からいつも怒られるとのこと。
そこでステコミの「資料」と「議事録」を見せてもらいました。すると理由がすぐに分かりました。
ステコミでオーナーを巻き込んでいるか
Aさんのステコミの「資料」で気づいた点は何でしょうか?
それは、週次定例会の延長で準備していた、ということです。
週次定例会は、現場レベルの情報共有・確認の場です。
具体的で細かい課題や解決策を検討しますが、それは現場レベルの話です。WBSも担当者別の詳細タスクです。
一方で、ステコミはプロジェクトオーナー(以下、オーナー)への報告です。
オーナーは自身が動くべき事案があるかを探っています。
・取引先や関連部門のトップに話を通す
・全体的な方針を示す
・意見が分かれているものに判断を下す
その判断材料として、プロジェクト全体の話が聞きたいのです。逆に現場レベルの細かすぎる話は聞きたくありません。そのレベルの話をひたすら聞かされると、オーナーはどうなるか…ということです。
Aさんからステコミの資料を見せてもらいましたが、週次定例会とほとんど同じ資料でした。当然ながら、説明も現場レベルの細かい内容になっていました。
Aさんには、ステコミのフォーマットを提示し、ステコミ専用の準備をお願いしました。
・概要スケジュールでの予実を作る
・課題やリスクは報告すべきものだけをピックアップする
・具体的な説明は省略し、要点のみで話を組み立てる
・説明のリハーサルを行う(最重要!)
次に、Aさんのステコミの「議事録」で気づいた点は何でしょうか?
過去議事録のどれをみても「決定事項」と「オーナーのTo Do」が全く記載されていなかった、ことです。
ここにオーナーを巻き込めたかどうかが現れます。これらがゼロの場合は、ステコミの内容を見直した方が良いでしょう。
オーナーは偉い立場なので、気を遣うのはよくわかります。しかし、気を遣いすぎると、「プロジェクトオーナー」という体制図上のトップが機能せず、意味がありません。
少々言葉は悪いですが
「プロジェクトを成功させるためにオーナーを利用すべき」
です。
オーナーが動けば、一瞬で解決することはたくさんあります。特に悪い情報ほど、積極的に相談することで、問題が大きくなる前に対処することができます。
そのためには、日頃よりステコミ用のアンテナを張っておくことが重要です。オーナーに報告すべきこと、オーナーに判断してほしいこと、オーナーに動いてほしいこと、それらを記録しておき、アジェンダに反映するのです。
ステコミの成否は雰囲気で分かる
Aさんは次のステコミでリベンジに臨みました。
新しく準備した資料で、細かい話はせずに要点のみに絞って説明します。
報告は15分で終了し、残りの15分は雑談になりました。
その雑談は、前向きで笑いに包まれ、いつもと異なる空気のまま終了しました。
「決定事項」と「オーナーのToDo」も明確になっています。
<決定事項>
・今回のスコープからXX事業は外す
<ToDo>
・XX事業の担当役員に話を通す(オーナー)
・取引先との打ち合わせに同席する(オーナー)
オーナーは「引き続き頼む」と上機嫌でAさんに話されていました。
貴社のIT部門/情報システム部は、ステアリングコミッティにおいて、プロジェクトオーナーを巻き込む内容になっていますでしょうか?
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情シスコンサルタント
田村 昇平
情シス(IT部門、情報システム部門)を支援するコンサルタント。
支援した情シスは20社以上、プロジェクト数は60以上に及ぶ。ITベンダー側で10年、ユーザー企業側で13年のITプロジェクト経験を経て、情シスコンサルティング株式会社を設立。
多くの現場経験をもとに、プロジェクトの全工程を網羅した業界初のユーザー企業側ノウハウ集『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』を上梓、好評を得る。同書は多くの情シスで研修教材にもなっている。
また、プロジェクトの膨大な課題を悶絶しながらさばいていくうちに、失敗する原因は「上流工程」にあるとの結論にたどり着く。そのため、ベンダー選定までの上流工程のノウハウを編み出し『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』を上梓し、情シスにインストールするようになる。
「情シスが会社を強くする」という信念のもと、情シスの現場を日々奔走している。
著書の詳細は、こちらをご覧ください。