2022
5/09
RFI回答のノックアウトファクター
RFI回答で足切りとなるポイント(ノックアウトファクター)は主に3つあります。
① 主要機能で足切り
その業界、業種で必要な機能、ゆずれない機能を「標準機能」として持っているかどうか。持っていなければ不採用となります。
あえて「標準機能」と明記するのは、カスタマイズ対応も含めてしまうと、全ての機能が「対応可能」となってしまうので、確認する意味がなくなってしまうからです。
標準機能として持っていることは、その機能について、ベンダーは知見やノウハウがあるということです。カスタマイズ不要であれば、品質・コスト・納期の全てで優位になります。逆にカスタマイズになると、そこからほころびが生じ、プロジェクトを難しいものとしてしまいます。
例えば、販売管理システムを探している場合「請求」「入金」「会計連携」「顧客マスタ」は当たり前の機能です(この機能すらなければ、お話にならないので門前払いです)。
そこに「業界固有の機能」があるかどうかを見ていきます。
私が支援した過去のプロジェクトでは、次のような機能をチェックしました。
不動産管理業:工事履歴、募集管理、契約管理、物件管理、オーナー管理
保険代理店:名寄せ、満期管理、意向把握、履歴管理
旅行業:宿泊・商材管理、ホテルなどの旅館管理、ツアー催行管理
出版業:取次管理、定期購読管理、広告管理、印税管理
一括りに「販売管理システム」と言っても、業界・業種により求められる機能は異なります。これらはカスタマイズすれば良いという話ではなく、これらの固有機能が「請求」や「入金」と密接に連動するため、パッケージのコアプログラムを触るという「品質リスク」になってしまうのです。
つまり、異業種向けのパッケージは全く使えません。そのため、業界固有の機能を見ながら、異業種向けベンダーを足切りにしていくのです。
② 導入実績で足切り
ホームページ上は「圧倒的な実績」とか「導入類型100社超」とか「シェアNo1」とか書いています。ベンダーも営業のための広告ですから、派手に演出しています。
目的もなく見ると「これだけ実績があれば安心できる」と思ってしまいます。
でも、本当に安心できるのでしょうか?
圧倒的実績の数字の根拠は?
100社の具体的な社名は?
シェアNo.1とは、どの領域で?
と疑問が出てきます。具体的な社名を出さないなら、いくらでも誇張して「盛る」ことができます。社数のカウントの仕方も、ちょっとしか関わらなかったものやトライアル利用した見込み客もカウントしているかもしれません。
A社やB社の実績やインタビューも、架空のものかもしれません。社名が分からないので、実は全く別の業界かもしれません。匿名なら、都合よく解釈し、都合よく表現できてしまいます。
もちろん、守秘義務もあるので、ホームページ上で公開できないだけで、真実のものもあるでしょう。つまり、ウソかホントか分からないのです。
だからこそ、RFIでは具体的な社名にこだわって確認していきます。
社名は、なかなかウソは書けません。「裏取りされたらどうしよう」という心理が働きます。社名はイチかゼロの世界。客観的な事実。ごまかすことができません。
社名からいろいろ見えてきます。自社と同じ業界なのか、同じ規模なのか。信頼できる企業や競合はどこを導入しているのか。そして、本当の導入件数は何社なのか。
オープンなホームページでは書きにくいですが、クローズドのRFIであれば、ベンダーも回答しやすくなります。
RFI回答では、社名を見ながら自社と全くかけ離れた業界・業種しか実績がなければ見送りとします。どんなに導入件数が多かろうが、自社に合わないシステムでは意味がありません。
自社とかけ離れた「規模」も避けます。特に自社よりも小さすぎる企業にしか導入がなければ、それも見送りです。機能が「プア」で、性能的にも問題が発生しやすくなるからです。
後は、無名の怪しい企業しか名前が出せないところや、具体的な社名を出せないところも見送りにしていきます。
まれに、本当に匿名でしか出せないベンダーもいます。そこは、いったん交渉します。「この選定でしか使わず、厳重に取り扱うので何とか出せないか」と伝えると、「上の特別の許可をもらったので」と出してくれることもあります。
ベンダーも、本当に誇れる実績は出したいはずです。社名を出さないベンダーは、出さないのではなく、出せないのです。
③ 基本情報で足切り
RFIの基本情報では、まず「売上高」を見ます。なぜか?
客観的な数字で、脚色できないからです。脚色しても、帝国データバンクや東京商工リサーチで調べたら、すぐにバレます。
この数字から、「だいたい年間あたり10社ぐらい導入しているのか」「ウチが発注したら、5社のうちの1社になるのか」などと、いろいろと読み取れます。
売上高は実績と合わせ読みすると効果的で、年間の案件数が想像でき、過去実績の裏付けなど確認できます。
回答を書く側のベンダーの心理も揺さぶります。盛りたいけど、売上と実績の矛盾がないように…とか考えると、結局はウソを書きにくくなります。
仮に発注した場合、売上に締める自社の割合が大きくなりすぎると「今回発注したら、ウチからの売上が半分以上になるけど大丈夫なのか?」と与信リスクも発生します。
ちなみに、選定で残り続けて、RFPを出すことになったベンダーに対しては、正式な与信調査をするため、そこまで細かく見る必要はありません。ざっくり見て、明らかに危ない、または矛盾がある、といった先を切っていきます。
また、あっさり足切りとなるのが「社員数」です。ホームページを見たら、とても洗練されているパッケージだが、社員数が10名以下、つまり一桁、というベンダーは意外と多い。ニッチな業種ほど、社員数「1名」というベンダーもザラです。もはや法人ではなく「個人事業主」です。ホームページは外注できるため、その内容の豪華さや洗練さは、社員数とは比例しません。
少人数、小さなアプリやちょっとしたツールで「少額買い切り」であれば問題ありません。しかし一定規模以上のシステムや基幹システムではありえません。導入に際し、満足に対応してもらえなくなるリスクが大きくなるからです。
小さなベンダーは、一人が「離職」や「体調不良」となっただけで、プロジェクトが一気に傾きます。メンバー1人あたりが受け持つ役割が多く、プロジェクトに大きな穴が開いてしまうからです。しかも社員数が少ないと、簡単に補充もできません。苦し紛れに「外注」で人を入れても戦力化せず、むしろ状態はより悪化したりします。
「価格・費用」は、予算を把握するために確認します。ただ、この段階では要求も出しておらず、「カスタマイズ費用」が含まれていないので、あくまで参考価格です。
RFPを出したら、この費用が3倍や5倍になった、というのはよくある話です。出来の悪いパッケージほどカスタマイズで対応しようとするため、費用が跳ね上がります。むしろ、カスタマイズ前提だから、パッケージ本体が「激安」になっている、とも言えます。そのため、この時点の費用は参考程度で扱い、それよりも多めにバッファを積んでおく必要があります。
よくあるのは「要求が明確でないので費用を出せない」というパターン。その時は「他社事例でも良いので参考価格がほしい」と追加で要求し、情報を得られるよう粘ります。
費用に関しては、あまりにも「桁違い」で予算オーバーの場合に足切りです。ですが、なかなか難しい。
完成度の高いパッケージ、柔軟性のあるパッケージは、基本的に標準価格が高い。でも、カスタマイズ量を抑えられるので、その後、あまり上振れしません。すると、未熟なパッケージがカスタマイズ費用で大きく追加となり、結果、逆転現象がおきます。
また、大手ベンダーや名のあるベンダーも基本的に高い。初めから取る気のない案件だから高く設定しているのか、品質はどこにも負けないというプライドなのか、いろいろ思考が錯綜します。ただ、やはり大手は「ベンチマーク」は残しておきたいので、最後まで残るということは多くあります。
「費用が高いのには理由がある」と考えると、この時点での足切りは勇気がいります。
RFI回答評価で5社以内に絞り切る
RFIの質問とベンダー回答、これらを一覧形式でまとめます。足切りとなった項目に印をつけて、グレーアウトしていきます。RFIなので「見送りとなっても連絡しない」という前提がここで活きてきます。遠慮せず、客観的に、机上で静かに退場させていきます。
この足切りで3社~4社に絞ります。ここに「予選シード」の現行ベンダーも加わり、5社までがRFPを提示する先となります。それ以上は、負担が大きくなりすぎます。狭く深く見るのは5社が限界です。
もし、それ以上に多く残ってしまった場合、どうするのでしょうか?
RFPを6社以上に出すのでしょうか?
そんなことはしません。RFPに進める前に、さらにふるいにかけます。
当落線上にあるベンダーに追加の質問を投げ、確認していきます。標準機能かカスタマイズの回答か曖昧だったものや、実績の回答がなかったものを、丁寧に追及していきます。RFIになかった質問を追加するのも良いでしょう。
このように、いろいろな角度から評価を加え、数を5社以内に絞っていきます。
可能性がないベンダーを見極め、そのベンダーには今後一切の時間をかけない。
もったいないからと残したベンダーは、貴重な時間を浪費するだけで、採用されることはありません。限られた期間の中で選定するには、足切りが必要であり、強弱をつけた評価が重要となります。
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↓RFIの他の解説についてはこちら↓
RFIの6大メリット
RFIの主な質問項目
RFIの初期段階でベンダーは何社探せばよいのか?
RFIの段階で現行ベンダーはどう扱うのか?
RFIの段階でベンダーに会ってはいけない4つの理由
RFI回答は順位を決めるものではない
RFI(情報提供依頼書)とRFI回答シートの作り方(サンプル画像付き)