FIT率60%は高いのか低いのか?

「各社のFit率が低いからウチにはパッケージは厳しいんじゃないか」

あるベンダー評価のドラフト版を作成した直後に、経営層の方から呼び出されました。パッケージの機能評価をした結果、Fit率は次の通りでした。
 

A社パッケージ:65%
B社パッケージ:55%
C社パッケージ:53%

 

確かにFit率は60%前後なので、約40%が不適合ということになります。

「ここまで合わないなら、お金と期間はかかるが、従来通り、スクラッチで開発した方が現場にとっては良いのではないか」

「やはり自社の業務は独自性が高いので、市販のパッケージは無理があったんじゃないか」

「今からでもスクラッチ開発の提案を受けないとまずいんじゃないか」

と矢継ぎ早に、感情的な主張をされました。

もし、算出したパッケージのFit率が60%前後となった場合、どうしますか?

パッケージを諦めるべきでしょうか?
 

FIT率の考え方

Fit率を考察する上では、次の2つの観点を考慮すべきです。

① Fit率の定義を正しく認識する

Fit率は、RFPで作成した「要求機能一覧」に対するベンダー回答を数値化したものです。要求した機能に対して、パッケージで「対応可能」か「不可能」か「カスタマイズなら可能」かを、それぞれスコアを付けて、集計しています。

こうして集計したFit率ですが、「60%だからギリギリOK」「50%以下だからやめる」などの議論は意味がありません。なぜなら、この数値は「絶対値」ではなく「相対値」だからです。相対比較のための指標だからです。

要求機能一覧では、「自社が気になる部分」「パッケージでは難しそうな部分」「こだわりの部分」「独自性が強い部分」を深掘りして確認しています。逆に「IDとパスワードによるログイン」「ユーザー管理」など、システム側で当然持っているであろう機能は、そこまで細かく確認していません。

つまり、自社の主観が入っており、要求に思いっきり偏りがあるのです。

システムの機能を平等に聞いているのではなく、独自の意地悪な聞き方をしていると言えます。だから、本当はシステム全体の「絶対値」でいえば80%かもしれませんが、要求の偏りによる「相対値」で50%になっているかもしれないのです。

じゃあ、この数字は意味がないのでしょうか?

そんなことはありません。数字を「相対値」で見ることに意味があります。

なぜなら、パッケージを「比較」しているからです。どのベンダーのパッケージが、自社業務に最も適合するかを評価しているのです。

そのため、「60%だから」「50%だから」という数字を根拠にした結論には意味がありません。そうではなく、相性の良さを見ていくことになります。
 

② 不適合に対するスタンスを明確にする

「Fit率60%」を「40%も合わない」と捉えると、ネガティブな評価になります。

一方で「40%も改善できる」と捉えると、ポジティブな評価になります。

要するに、スクラッチ開発ではなく、あえてパッケージを入れる意味をいま一度、考えてほしいのです。

・パッケージで業務を標準化する
・パッケージをテコに業務改革を進める

という目的があるならば、Gap(不適合部分)はむしろ「伸びしろ」であり「チャンス」となります。市販パッケージという「黒船」で、強制的に業務を標準化できる部分が「40%」もあるのです。

重要なのは、この40%の内訳をきちんと分析することです。どうしても譲れない機能なのか、むしろ標準化で合わせにいくべきなのか。それにより40%の評価は大きく変わってきます。そこをきちんと評価し、スコアに反映することが求められます。

逆を言えば、パッケージを入れるのに「Fit率100%」はありえないのです。

標準化やBPRのメリットがなく、そもそもの目的から見直した方がいい、とも言えます。比較して「差」がつくような要求機能を出せていない、という可能性もあります。
 

FIT率に対する解釈は経営判断

Fit率の数字は、「相対比較」の指標として扱います。

その上で、Fit率に対する解釈を明確にしておくこと。

Gap機能を整理し、業務に与えるインパクトを適切に評価することが重要です。

ちなみに、冒頭の事例として挙げた、経営に呼び出されたプロジェクトは、その後「Fit率65%」のパッケージを採用し、現在は問題なく稼働しています。

BPRにより業務改革も実施し、以前よりも業務フローがシンプルになりました。導入6か月後にアンケートをとり、現場の「満足度」は大幅に改善されたとの結果が出ています。
 
 

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