2022
10/05
プロジェクトでもっとも過酷なポジション
「もう誰かに引き継いで、逃げ出したい」
業務変革を伴うプロジェクトは、日々ストレスとの闘いです。
急に体調不良を理由に長期休暇に入り、そのまま離脱するケースも少なくありません。
近頃は、テレワークで増えた気もします。
顔が見えないので、表情や雰囲気がくみ取れず、気づいたらいなくなっています。
大抵は、そのような人は直前まで切り盛りしていて、非常に献身的にプロジェクトを推進しています。そんな頼もしい存在が、急にいなくなります。
このような状況で、最も重圧がかかるのが「プロジェクトマネージャー」でしょう。
うまくストレスと付き合い、対応していかないと、その重圧に潰れてしまいかねません。
どのようにストレスをさばいていけばよいのでしょうか?
まずは現状を客観視する
まず、ストレスの要因から整理してみます。
①身内(社内)にストレスとなる人物がいる。
必ず身内にいます。ベンダーではありません。ベンダーは発注している立場なので、ビジネスライクに何とでもなります。
②性格がマジメすぎる
責任を一人で抱え込むと、逃げ場がなくなります。当事者意識をもって、責任を背負うのは大事ですが、度を超すと心身が不調になっていきます。
③腹を割って相談できる人がいない
愚痴を言えて、ガス抜きができる相手がプロジェクト内にいないと、つらすぎます。背負っているものを分担できず、増え続けます。
④プロジェクトオーナーが味方でない
本来は援護射撃するべき上司がストレス原因だと、かなりきついです。部門間調整や社外調整なども丸投げしてきているなら、そもそもPO失格ですが。
⑤テレワークで引きこもっている
コロナでテレワークが普及して、離脱者が増えたように感じます。運動量が減って、直接人と接触することもなく、密閉空間の中にずっといると、バランスが崩れるからでしょう。深夜残業など、公私が密着しすぎてリフレッシュできない問題も出てきます。
⑥誰かに依存しすぎていてコントロールできない
身内、またはベンダーに丸投げして依存しすぎている場合は、状況をコントロールできません。足元をみられたり、拒絶されたりすると、自力では打ち手がなくなり、急に追い込まれてしまいます。
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上記のうち、どれに当てはまるか?を考えてみることで、客観的に対策を練ることができます。
私の経験則では、要因が1つであることは稀で、大抵は複数の要因が絡み合っています。だからこそ面倒であり、この難解なパズルを解けなくなり、苦しくなるのです。
要因に応じた対策を考える
次にそれぞれ対策を考えていきます。
①ストレス人物との接触方法を変えてみる
その人との間に誰かを入れます。その人に苦手意識がない人、立場の強い人、外部でしがらみのない人。意外にも、ベンダーがその役回りを引き受けてくれることもあります。
②抱え込まずプロジェクト全体責任と開き直る
開き直りは重要です。まず1人でできないからこそ、プロジェクトを組んでいるのです。プロジェクト体制が弱いと、苦しくなるのは当然です。スキルや人手が足りなければ、体制を強化・補充します。
③有力な支援者を作り、相談する
プロジェクトマネージャーは、まずは「プロジェクトリーダー」に良き右腕になってもらいます。そして何でも相談する。これだけで、どれだけ楽になれることか。次は「ベンダー側のプロジェクトマネージャー」です。立場は違えど、同じPMとして、運命共同体といえます。ここが強力な味方になってもらえたら、プロジェクトの情景が一変します。この2名だけは、かならず押さえておくべきでしょう。
④プロジェクトオーナーを動かす
プロジェクトマネージャーとして、プロジェクトオーナーを動かすのは「役割」であり、腕の見せどころです。世の中、残念なオーナーがいるのは知っていますが、そこで諦めてしまうとプロジェクトが沈没します。オーナーの性格も把握した上で、あの手この手で動かすのもスキルです。意外と体当たりで相談にいくと、親身に受け止めてくれるケースは多いものです。
⑤出社する
いつもテレワークの場合、毎日とは言いませんが、曜日を決めて出社することは非常に有効です。通勤で体を動かし、直接会って話をして、雑踏の中に身を置き、開放的な空間で外の空気を吸うだけで、気分は晴れます。
⑥過度な依存関係を解消し、主体性をもつ
自分でコントロールできないから、振り回されてしまい、ストレスになるのです。逆に言えば、コントロール下に置けば、ストレスは緩和されます。経験上、ストレスの大きな人は、誰かに依存しすぎです。最悪、その人がいなくなっても自分が巻き取れるよう関与を強めれば、足元を見られることもなくなります。受け身ではなく主体的になること。丸投げするのではなく、少しは首を突っ込んで状況を知ろうとすること。自立すれば、そもそものストレスが生まれにくくなります。
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もし、心が折れそうになったら客観的に分析してみましょう。
そして、開き直ってください。そもそもプロジェクトは「チームプレー」なので、一人でできるものではありません。
一人の責任はありえないのです。
人間だから愚痴ることもあります。
もっと周りを頼り、信頼して任せてください。
敵だと思うから敵になり、味方だと思えば味方になってくれます。
上司も、後輩も、ベンダーも、周囲の関係者全員を「巻き込む力」が、プロジェクトマネージャーとして重要なスキルです。
全員を巻き込めたら、責任もストレスもすべて按分できます。
プロジェクトマネージャーは重圧から孤独に感じることも多いですが、最も支援者が多いポジションとも言えるのです。
プロジェクトマネージャーの成功スパイラル
大きな変革プロジェクトほどストレスが大きくなります。現場の既得権益者から激しい抵抗にあうからです。
でも、それは会社を大きく変えようとしている証拠です。
だからこそ、そのプロジェクトは大きな価値があります。
そもそも、そのプロジェクトに参画せず、ぬるま湯につかっていれば、ストレスなんかありません。
ですが、成長もありません。
ストレスがあるのは、安全圏から飛び出してチャレンジしている証拠です。着実に自己成長しています。
特にプロジェクトマネージャーは、常に先が見えないギリギリの判断を求められます。カミソリの刃の上で、危ういバランスをとって歩いている感覚。そのマネジメントの神髄は、限界まで追い込まれないと覚醒しないスキルなのかもしれません。
このプロジェクトマネジメントは、「完走」してはじめて自分の血肉となりノウハウとなります。
なぜなら、各局面での打ち手が正しかったかどうかがわかるのは、プロジェクトが終わった時だからです。
結果を見て、はじめて腹落ちして体系的に理解できます。
また、ストレスが大きかったプロジェクトほど、完走したときの達成感も格別です。それは次への自信につながります。
次に同じようなプロジェクトを回す際には「ストレス耐性」もできているため、ちょっとのことでは動じなくなるでしょう。
私は今まで多くのプロジェクトを支援してきましたが、その都度、追い込まれていくプロジェクトマネージャーを見てきました(苦笑)
ですが、ほんのちょっと心の持ちようを変えることで踏ん張り、見事に完走していく様をたくさん見届けてきました。
貴社の変革プロジェクトも、ぜひ完走してください!
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情シスコンサルタント
田村 昇平
情シス(IT部門、情報システム部門)を支援するコンサルタント。
支援した情シスは20社以上、プロジェクト数は60以上に及ぶ。ITベンダー側で10年、ユーザー企業側で13年のITプロジェクト経験を経て、情シスコンサルティング株式会社を設立。
多くの現場経験をもとに、プロジェクトの全工程を網羅した業界初のユーザー企業側ノウハウ集『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』を上梓、好評を得る。同書は多くの情シスで研修教材にもなっている。
また、プロジェクトの膨大な課題を悶絶しながらさばいていくうちに、失敗する原因は「上流工程」にあるとの結論にたどり着く。そのため、ベンダー選定までの上流工程のノウハウを編み出し『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』を上梓し、情シスにインストールするようになる。
「情シスが会社を強くする」という信念のもと、情シスの現場を日々奔走している。
著書の詳細は、こちらをご覧ください。