2022
11/02
最近よくあるベンダー提案プレゼン
「弊社の販売管理パッケージとB社の経費精算パッケージの組み合わせを提案いたします」
あるベンダー提案プレゼンで、ベンダーのA社とB社が一堂に会し、それぞれの営業担当者が説明しました。
体制図を見ると、A社とB社が横並びで連携し、提供する業務領域によって、担当が分かれています。
実は、このような複数ベンダーによる提案は珍しくありません。
近年では、基幹システムのパッケージは出揃っています。それぞれのパッケージの強みを組み合わせて、システムを構築する手法は、もはや常套手段といえます。
実際に、私もこの「販売管理システム+経費精算システム」の組み合わせは、実に4回目となります。
しかし、この複数ベンダーでのプロジェクトは、難易度が少し上がります。
正直に言えば、痛い目にあってきました。
この複数ベンダーならではのリスクとは何でしょうか?
連携不足による悪循環
お互いのベンダーは、まったく別の会社です。アサインされたメンバーは「今回初めて一緒にやる」方がほとんどでしょう。
そのため、お互いがどのように進めるかもわからない中、信頼関係の構築もこれから、という状況です。
この状況で発生する問題は、次の1点に集約されます。
ベンダー間の横連携が薄い。
これが、次々と具体的な課題に発展していくのです。
① 自社の打ち合わせ工数がふくれ上がる
「えっ?A社から聞いてないの?」
「そこはベンダー同士で決めればいいのに、なぜウチに聞くの?」
ベンダー間の横連携が薄いと、自発的にベンダー間でコミュニケーションをとりません。
すると、自社を通じて伝言ゲームのような状況が発生します。
自社がいる場でしか、ベンダー同士が会わないことも増えてきます。
そのため、ベンダー間の連携を増やそうと、自社が頑張って打ち合わせを設定します。自社がいないと、ベンダー間の連携ができない悪循環に陥ります。
こうして、自社は打ち合わせ三昧となり、打ち合わせだけで1日が終わっていきます。それ以外のタスクが滞っていき、夜遅くまで残業が慢性化し、疲弊していきます。
② サブシステム間連携で品質が不足する
それぞれのパッケージシステムは、お互いがサブシステムとしてデータ連携が欠かせません。
マスタデータの連携やトランザクションの連携、設定の引継ぎなどは、きちんとベンダー間で仕様をすり合わせしないと、データ連携でバグが発生します。
コード値の統一、桁数、初期値の相違などは、その代表例です。
③ システム全体の操作性が悪くなる
システム全体として設計しないと、マスタデータや設定の二重入力が発生します。
本来であれば、システム間でデータ連携を行えばよいだけです。
また、画面への入力ポリシーの違いや、項目名の相違など、細かい部分でシステム間の相違が発生します。
そうなると、ユーザー側で項目名を読み替えたり、操作方法を意識して変えたりしないといけなくなります。
システム全体としてきちんと設計されていないと、ユーザーにとって操作性が悪くなり、大きなストレスを与えてしまいます。
④ グレーゾーンの対応で追加費用が増える
お互いのベンダーが自分たちのサブシステムだけで進めていると、その境界線で考慮が漏れ、グレーゾーンが発生します。
受け入れテストでグレーゾーンのバグが発生し、ベンダーとしては「仕様変更」を主張してきます。ベンダー間でも責任をなすり合い、「要件定義書」を承認したユーザー側にも飛び火してきます。
ベンダー間で信頼関係があれば、協力して解決策を模索できるのですが、もはやそのような関係は望めません。
結果として、ユーザーが承認した要件定義書に書いていなかった追加対応となり、追加費用が発生します。
⑤ 相談窓口があいまいとなり、さらに遅れる
どちらのベンダーに聞いてよいか微妙な課題というのも、多く発生します。
そのたび、どちらのベンダーに確認したらよいか曖昧で、たらい回しとなり、解決までに時間を要します。
その結果、進捗がどんどん遅れていきます。
***
ベンダー連携不足が末期状態になると、自社がいる場で仲裁しないとコミュニケーションがとれなくなります。
こうなると、自社が2つの異なるプロジェクトを「掛け持ち」しているようなものです。
自社の負担は2倍どころか、そこに起因する問題を解決するために、3倍、4倍とふくれ上がってしまうのです。
まず仕組みをつくり、その上に関係を構築する
これらの解決策は以下の通りです。
① 進捗会議は合同で行う
ベンダーそれぞれでの「進捗会議」開催を許してはいけません。「合同開催」とし、お互いの進捗状況や課題の共有を行う場を作っていきます。
② ベンダー間でどう連携をとるのか明確なルールをつくる
ユーザーが介入しなくても、横連携される仕組みを促します。具体的には、ユーザーが参加しないベンダー内部の定例会を開催させ、情報連携と関係性構築を行ってもらいます。
③ 最終責任と窓口をどちらか1本に絞ってもらう
システム全体の設計に関する「責任」と「窓口」を一本化してもらいます。サブシステム間の考慮もれ、設計ミスはどちらかのベンダーに責任を帰属させ、全体設計に当事者意識をもってもらいます。
④ 問題発生時は両PMを集められるように関係構築する
自社がそれぞれのベンダーPM(プロジェクトマネージャー)といつでも相談できる関係を構築します。そうすることで、何かあった場合に、両方のPMを集めて一気に「相談 → 解決」の流れにもっていけます。
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プロジェクトの終盤、受け入れテストで不具合が多発し、究極に苦しいときに頼れるのはベンダーのPMです。
やはり人間は「感情」に左右される生き物。
日々の関係性が悪ければ、苦しいときに助けてもらえません。
あえてグレーゾーンを拾いにきてはくれません。
一方で、お互いがリスペクトし合い、信頼し合っていれば、何か問題が発生したときに、グレーゾーンであっても当事者として対応してもらえます。
では、どうすればリスペクトしてもらえるのでしょうか?
それは、自社がベンダーに「丸投げ」しないことです。
丸投げするから、蚊帳の外に置かれます。
ベンダーは当事者意識のない人に構っている暇もなく、メリットもありません。
自社が当事者意識を丸出しで、プロジェクトを自ら推進していこうとするからこそ、ベンダーに頼られ、コミュニケーションが活性化し、その献身的な姿勢にリスペクトが生まれるのです。
そうなると、自社を助けるために、自発的にベンダー同士で話し合い、解決策を協議し、その選択肢を自社に提示してもらえます。
そもそも、マルチベンダーを統率するのは他でもなく自社です。
自社がリーダーシップを発揮して、率先してコミュニケーションをとっていくのは当然の話ではないでしょうか。
お互いがフォローし合うプロジェクト体制
「また後で相談してもよいですか?」
ある別の現場では、ベンダー2社と自社が集まっての3社による「合同進捗会議」を開催しています。その中で、A社のPMからB社のPMに相談を持ちかけています。
それを聞いた私も「その相談に私も混ぜてください!」と言いました。
「じゃあ、いつものURLで」とA社のPMが返します。
私はこの2人のPMをすごくリスペクトしていています。
打ち合わせしていると楽しいです。
脱線しまくって、なかなか仕事の話に入らないときもあります。
でも、お互いの連携で失敗するイメージはまったくありません。
お互いがフォローし合えば、何でも解決できる。そう感じさせてくれます。
複数ベンダーとのプロジェクトは、いつもこの状態を目指したいものです。
貴社のマルチベンダープロジェクトは、うまく横の連携がとれていますでしょうか?
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情シスコンサルタント
田村 昇平
情シス(IT部門、情報システム部門)を支援するコンサルタント。
支援した情シスは20社以上、プロジェクト数は60以上に及ぶ。ITベンダー側で10年、ユーザー企業側で13年のITプロジェクト経験を経て、情シスコンサルティング株式会社を設立。
多くの現場経験をもとに、プロジェクトの全工程を網羅した業界初のユーザー企業側ノウハウ集『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』を上梓、好評を得る。同書は多くの情シスで研修教材にもなっている。
また、プロジェクトの膨大な課題を悶絶しながらさばいていくうちに、失敗する原因は「上流工程」にあるとの結論にたどり着く。そのため、ベンダー選定までの上流工程のノウハウを編み出し『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』を上梓し、情シスにインストールするようになる。
「情シスが会社を強くする」という信念のもと、情シスの現場を日々奔走している。
著書の詳細は、こちらをご覧ください。