2022
12/07
情シスのブラックボックス化
「すべてがブラックボックスで属人化しています」
ある情シス部長から相談を受けました。
その方は、もともと営業畑の人で、ITには詳しいわけではありません。ところが異動になり、情シス部長に就任したとのこと。
まずは情シスメンバー全員とヒアリングしてみましたが、専門用語のオンパレードでよくわかりませんでした。
次に、ドキュメント関係を調べてみましたが、ほとんどありません。あっても10年以上前のかなり古いものでした。
そして、情シスメンバー内では、仕事量に大きな差があります。特定のメンバーは定時で帰りますが、それ以外のメンバーは常に夜遅くまで残業していました。
分担したくても、属人化しているためできません。
マニュアルを作って引き継ぎたくても、そんな時間もありません。
誰かが病欠や離職となると、その業務の継続すら危ぶまれます。
具体的にどこが属人化しているかを聞いてみると、「自社サーバー管理」「現行基幹システム保守」「Excelマクロ」「Accessクエリー」「Access帳票」「VBAで作ったアプリ」「最近入れたRPA」「部署ごとに特化したヘルプデスク」など、次々と出てきます。
つまり、情シスの全ての領域で「ブラックボックス」と化しています。
「どこからどう手を付ければよいのか・・・」
部長の溜め息が聞こえてきました。
インフラリスク
情シスの領域で、ブラックボックス化が最も問題となるのはどこでしょうか?
ネットワークやサーバーなどの「インフラ」領域です。
なぜなら、インフラは会社の事業基盤であり、停止した時の影響が一番大きいからです。
事業継続リスクとも言えます。
では、どのような場合にインフラがブラックボックスになりやすいのでしょうか?
「オンプレミス」です。
本社のサーバールームやデータセンター、全国の拠点に配置してあるサーバーとネットワーク機器、これらを「自前」で管理している場合です。
ここが属人化し、ドキュメントも残っていないと、かなり危険な状態です。
サーバー、ルーター、ファイアウォール、ネットワーク回線など、それぞれベンダーと保守契約しているかどうかもわかりません。
バージョンが古く、サポート対象外となっているかもしれません。
障害が発生しても、切り分けができません。どのベンダーに聞けばよいかもわかりません。
昔は、オンプレミスで問題なかったのでしょう。
社内の閉じたネットワークだったので、外部から攻撃は受けません。全員出社するので、社内から接続できれば問題はありませんでした。
しかし、現在は「テレワーク」が前提にあり「クラウドサービス」を活用しています。インターネットには、常時接続されています。
オンプレサーバーには、外からアクセスする必要もあります。
VPNで接続していますが、古いバージョンが狙われ、世間ではセキュリティ事故が絶えません。
そのため、セキュリティ対策はやっているとのことですが、どうやっているかもブラックボックスです。
そもそも「働き方」や「テクノロジー」が変化しているのに、インフラの在り方を見直していないことがまずいのです。
クラウド化が情シスを助ける
そのため、オンプレミスの解決策はシンプルに「クラウド化」です。
クラウド化することで、物理的な監視や故障対応、トラブル調査から解放/緩和されます。
サイバーセキュリティの対策も、クラウド側で行われます。
サービス拡大時は、サーバースペックを簡単にスケールアップできます。
BCP対策もオプションで実現できます。
クラウドは標準化されたメニューがあり、仕様や手順が公開されています。
その結果、情シスの負担が軽減され、属人化も解消しやすくなります。外注もしやすくなるでしょう。
クラウド化への大きすぎるハードル
しかし、このクラウド化はそう単純な話にはなりません。
クラウド化するには、オンプレミスに載っているアプリやファイルを移行する必要があります。
そのため、移行対象を選別する必要があるのですが、ブラックボックスなゆえに、難易度が高くなります。
うかつに触って動かなくなるのは避けたいところ。
その代表格が、現行の「基幹システム」です。
基幹システムは巨大であるがゆえ、その構成も複雑です。
そのため、いったんそのままの構成でIaaSに移すことも考えられますが、移行後にもきちんとテストをしないといけません。
どこまでテストを行えばいいのか、悩ましいところです。
そのため、どうせクラウド移行に費用と労力をかけるのだから、再構築して作り直す方が合理的と考えられます。
この基幹システムさえオンプレミスから移行してしまえば、後は小粒なので、段階的に移行していけます。最後はデータセンターとの契約を解除し、コスト負担を解消していきます。
一方で、この基幹システムも情シスにとっては問題だらけです。
システムのメンテナンス方法が特殊すぎて、かなり属人化しています。
常駐ベンダーと保守担当者が日々メンテナンスする前提の仕組みだったりします。
保守担当者は、いつも一生懸命にやっているので、現場ユーザーには重宝されます。
しかし、情シス的には、その人がボトルネックにもなります。
現行システムを愛しすぎているがゆえに、新システムの検討には非協力的です。
現状が最適解であり、自分が最も働いているのになぜ周囲は協力せず、評価もしてくれないんだ、と不協和音を生み出したりします。
情シス内でその人を手伝おうとしても、うまくいきません。
そもそも、分業できてしまうと自分の絶対的な立場が下がると考えているので、秘伝書があっても開示しようとはまったく思っていないのです。
その結果、作業量を平準化できず、全体のパフォーマンスを上げることができなくなります。
つまり「オンプレ保守」だけでも大変なのに、そこに「基幹システム」を載せているから、さらに輪をかけて大変なことになっています。
情シスは両手がふさがった状態で「ヘルプデスク」にも対応するため、とても「攻めの領域」を考える余裕がありません。
ここを解消しない限り、情シスは永久に忙殺されるだけなのです。
情シス自体のデジタルトランスフォーメーション
いろいろな会社から「情シスが受け身」という相談を受けます。
そして、話を紐解いていくと、大抵のケースで「オンプレミス」が鎮座していて、その上に「基幹システム」が載っています。
大きな流れとしては、「基幹システムをクラウドで再構築」→「オンプレ廃止」となります。
そうすれば、情シスの大きなブラックボックスが解消され、タスクを大幅に見直すことができます。
そして、その先にようやく「DX」が待っているのです。
貴社のIT部門・情報システム部門は、ブラックボックスが解消されておりますでしょうか?
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情シスコンサルタント
田村 昇平
情シス(IT部門、情報システム部門)を支援するコンサルタント。
支援した情シスは20社以上、プロジェクト数は60以上に及ぶ。ITベンダー側で10年、ユーザー企業側で13年のITプロジェクト経験を経て、情シスコンサルティング株式会社を設立。
多くの現場経験をもとに、プロジェクトの全工程を網羅した業界初のユーザー企業側ノウハウ集『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』を上梓、好評を得る。同書は多くの情シスで研修教材にもなっている。
また、プロジェクトの膨大な課題を悶絶しながらさばいていくうちに、失敗する原因は「上流工程」にあるとの結論にたどり着く。そのため、ベンダー選定までの上流工程のノウハウを編み出し『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』を上梓し、情シスにインストールするようになる。
「情シスが会社を強くする」という信念のもと、情シスの現場を日々奔走している。
著書の詳細は、こちらをご覧ください。