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現行ベンダーは情シス代替要員の有力候補

2022

12/14

現行ベンダーは情シス代替要員の有力候補

現行ベンダーの本音

「私たちはどうなるんでしょうか?」

ある現場では、基幹システムが実に20年以上も稼働しており、「老朽化」という言葉がピッタリです。

そのシステムは、業務の変化に機能が追い付いておらず、イレギュラーなトランザクションはDBを直接編集しないといけません。

人事異動時もマスタ整合性をとるために、複雑なAccessクエリーでDBを更新しています。

どう運用しているかというと、このシステムを開発したベンダーから派遣された、2名のエンジニアが常駐して対応しています。

毎日、膨大な量の現場要求を処理しており、この2人がいないと業務は回りません。

このように保守性が悪く、業務とシステムの乖離が激しくなったため「基幹システム再構築プロジェクト」が立ち上がります。

現行システムからデータを移行する必要があるため、この2人もプロジェクトメンバーとして入ってもらうことになりました。
 

しかし、この2人の動きがよくありません。
 

会議は欠席することが多く、質問を投げてもなかなか回答が返ってきません。

日中は忙しそうなので、夜遅くにこの2人の自席に伺って、話を聞いてみました。

すると最初は2人とも

「現行システムへの緊急性の高いリクエストが多く、なかなか時間がとれない」

と主張されていました。ところが、だんだん話が変わってきて

「新システム導入後は、我々は契約終了なのか?」
「わざわざ自分たちのクビを切るためのプロジェクトに協力しろと言われても…」

そう、この2人はプロジェクトに時間をとれなかったのではなく、とらなかったのです。

この2人が後ろ向きになる理由もわかります。

この保守ベンダー2人に対して、プロジェクトはどう接していけばよいのでしょうか?

理想の情シス像

ベンダーが常駐して現行システムをメンテナンスしている現場を、私は多く見てきました。

その場合、ほとんどが情シスの席に座って対応しています。

そのため、一見するとそこの社員に見えます。

これらの常駐ベンダーには以下のような特徴を感じます。
・当然ながら現行システムの機能や仕様に詳しい
・ベンダーとしてIT技術や開発力がある
・IT技術を駆使した自動化で解決を試みる
・業務知識も豊富
・他部署との人脈も多い
・仕事が丁寧
・社員を立て、腰が低い(例外もありますが…)

これは見方を変えると「理想の情シス」像といえます。

ただでさえ、情シスは人手不足です。

転職してくる人材は、アタリハズレが大きく、ハズレを引く場合も少なくありません。

特に業務知識はなかなかキャッチアップが難しく、現場に寄り添える人材はなかなか育ちません。

そんな「転職ギャンブル」をするぐらいなら、現行ベンダーを引き留めた方がはるかに信頼でき、確実に戦力となります。

もちろん、現行システムにあぐらをかき、たいして仕事をしていないベンダーもいるでしょう。その場合は、遠慮なく終了です。

しかし、長年にわたり献身的に保守をしてくれたメンバーを、システムと一緒に交代するのは余りにももったいないといえます。

現行ベンダーのポテンシャル

では、残ってもらったとして、仕事はあるのでしょうか?

スクラッチ開発の場合は、そこの開発ベンダーが稼働後も残り、機能拡張をしていくのが良いでしょう。つまり、旧ベンダーは活躍しにくいといえます。

しかし、近年の基幹システムはほとんどが「パッケージシステム」です。

パッケージベンダーは、導入サポートはしてくれますが、保守は基本的には行わないスタンスです。

マスタデータの登録や変更、システムの設定等は、ユーザー側で行う設計思想だからです。

つまり、誰かがこの保守を担当しないといけません。

さらに最近は、ノーコードやローコードで機能拡張できるパッケージやソリューションが増えてきています。

レポートやダッシュボードなどのBIも、ユーザー側で構築できる機能が搭載されています。

これらは、これまで保守してきたベンダーの「技術力」と「業務知識」をフル活用できる仕事ともいえます。

この開発ノウハウを社内に展開してもらい、社内で「内製部隊」を立ち上げることもできるでしょう。

他の情シスメンバーへのスキルトランスファーを計画することで、「社内教育」の面でもプラスになります。

あくまで選択肢の1つですが、「人手不足の情シス」と「継続して仕事を確保したいベンダー」で、Win-Winとなる可能性は模索すべきでしょう。

プロジェクトの成功要因

現行ベンダーの2人には、導入後も引き続き保守を中心とした「情シス代行支援」をやってもらう方向で話を詰めました。

それからというもの、プロジェクトはこの2人が中心となり、ものすごい勢いで進んでいきました。

受入テストもこの2人が全てのテストをリードし、移行においてはこの2人の独壇場でした。

これがもう1つの大きな「メリット」なのです。

新システム導入プロジェクトにおいて、現行ベンダーを味方につけること。

これでプロジェクトの成功率が飛躍的に上がります。

***

先日、忘年会で久しぶりにこの2人に会いました。

「今は3つプロジェクトが動いていて大変なんですよ!」

その言葉は、以前よりも明るく前向きで、充実しているように見えました。

貴社のIT部門・情報システム部門は、新システム入れ替え時に「現行ベンダー」をどのように位置づけていますでしょうか?

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情シスコンサルタント
田村 昇平

情シス(IT部門、情報システム部門)を支援するコンサルタント。

支援した情シスは20社以上、プロジェクト数は60以上に及ぶ。ITベンダー側で10年、ユーザー企業側で13年のITプロジェクト経験を経て、情シスコンサルティング株式会社を設立。

多くの現場経験をもとに、プロジェクトの全工程を網羅した業界初のユーザー企業側ノウハウ集『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』を上梓、好評を得る。同書は多くの情シスで研修教材にもなっている。

また、プロジェクトの膨大な課題を悶絶しながらさばいていくうちに、失敗する原因は「上流工程」にあるとの結論にたどり着く。そのため、ベンダー選定までの上流工程のノウハウを編み出し『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』を上梓し、情シスにインストールするようになる。

「情シスが会社を強くする」という信念のもと、情シスの現場を日々奔走している。

著書の詳細は、こちらをご覧ください。