2022
12/28
業務知識が追い付かないと不安になる
「プロジェクトに全く役に立っていないので、今後がものすごく不安です」
あるプロジェクトで、情シスの若手AさんがPMOとして参画していました。
要件定義のセッションには毎回参加し、必死に業務を覚えようとしています。
積極的にベンダーに質問をしますが、逆に業務部門から
「それは前回確認した」
「そんなケースはありえない」
と、冷たくさえぎられる状況です。
そのようなやりとりが増え、徐々に業務部門とベンダーとの会話にAさんは入り込めなくなりました。
セッションを重ねるにつれ、業務の詳細に話が移り、内容の理解すら追い付かなくなっていきます。
Aさんから相談を受けると、次々と不安の言葉が出てきました。
「大丈夫ですよ!Aさんはこれから忙しくなりますよ!」
と私は答えました。
PMOは求められている役割が異なる
Aさんが必死に「業務」を覚えようとする姿勢は、正しいと考えます。
PMOとして業務知識は間違いなく必要です。
しかし、PMOは業務担当者ではありません。
(役割)
業務担当者は、業務要件に対して「意思決定」する
PMOは、プロジェクト全体の「意思決定をアシスト」する
そのため、PMOはプロジェクト全体を俯瞰して、大局を読む必要があります。
・進んでいないところはどこか?
・早めに解決しないといけない課題は何か?
・その課題は誰に意思決定してもらうのか?
課題に応じて、経営層ならステコミで、業務部門なら分科会や個別セッションで、他システム連携なら関連部署と担当ベンダーに、それぞれ調整や確認が必要となります。
PMOは会議体をアレンジして、関係者同士をつなぐ「ブリッジ役」として、各方面に動き回らないといけません。
この動きは、業務部門にはできません。正確にいうと、やりたくありません。
業務部門は、目の前の「仕様決定」に追われており、内容の調整や課題の解決に集中したいからです。
そのため、会議の段取りをつけたり、会議の進行をしてくれたり、時にはお尻を叩いてくれたりするPMOメンバーはありがたいのです。
会議の準備や進行負担を気にせず、業務要件に集中できることが、どれだけありがたいことか。
毎回、感謝の言葉を受け取るわけではないので、気づかないだけです。
そのためには、繰り返しますが、PMOには「業務知識」が必要です。
役割が異なるからと「業務を知ろうとすること」を放棄すると、大局が読めなくなり、ブリッジ役が務まらなくなるからです。
業務担当者と同じレベルは無理だとしても、話の流れをつかみ、課題や進捗を把握し、関係者を招集できる程度にはキャッチアップすべきです。
尻上がりに信頼度が上がっていく
Aさんはその後、システム連携を積極的に推進しました。
関連する部門のキーパーソンを会議に召集したり、そこの保守ベンダーとインタフェース仕様を調整したり、多くの関係者間を奔走しました。
連携するシステムが5つもあったため、そのタスクを早い段階から取り掛かったのは、全体スケジュールを守るためには非常に効果的でした。
そんなAさんの姿に、冷たかった業務メンバーも徐々に信頼するようになります。
今では、業務の課題管理や進捗管理もAさんに任せるようになりました。
そんなAさんは、以前と比べてはるかに忙しくなりましたが、「表情」も「声」も「話し方」も明るく、別人に見えます。
貴社のIT部門・情報システム部門は、PMOとして業務部門をしっかりとアシストできていますでしょうか?
関連コラム
コラム更新情報をメールでお知らせします。ぜひこちらからご登録ください。
情シスコンサルタント
田村 昇平
情シス(IT部門、情報システム部門)を支援するコンサルタント。
支援した情シスは20社以上、プロジェクト数は60以上に及ぶ。ITベンダー側で10年、ユーザー企業側で13年のITプロジェクト経験を経て、情シスコンサルティング株式会社を設立。
多くの現場経験をもとに、プロジェクトの全工程を網羅した業界初のユーザー企業側ノウハウ集『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』を上梓、好評を得る。同書は多くの情シスで研修教材にもなっている。
また、プロジェクトの膨大な課題を悶絶しながらさばいていくうちに、失敗する原因は「上流工程」にあるとの結論にたどり着く。そのため、ベンダー選定までの上流工程のノウハウを編み出し『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』を上梓し、情シスにインストールするようになる。
「情シスが会社を強くする」という信念のもと、情シスの現場を日々奔走している。
著書の詳細は、こちらをご覧ください。