2023
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IT戦略を立てる部署がない
「恥ずかしながら、ウチにはIT戦略や企画を担う部署がなくて…」
ある業界でトップシェアをほこるA社の情シスリーダーから相談を受けました。
その企業は歴史が古く、ずっとその業界を牽引している存在。
社員数は約1000名いますが、情シス社員はわずか6名。
「かなり少ないですね」と呟くと「やっぱりそうですか」と返答。
聞くと、その業界自体が「アナログ」でITとは無縁でした。そのため、IT部門の存在は軽く見られ、PCをセットアップして、現場の問い合わせに答えるだけでした。
それでも、その作業の件数が多く、情シスは毎日残業しても追い付きません。
そのため、増員の計画を立てているとのことでした。
一方で、近年はこのアナログ業界でも「DX」の大きな波が押し寄せます。
そこで社長は、情シスにDXを計画するように号令が出ました。
しかし、そもそもDXの基となる「IT戦略」を立てたこともなく、文化もなく、専門チームもないので、相談に来られたのでした。
「そもそも他社では、情シスがIT戦略やDXを企画するのが普通なんですか?」
情シスリーダーが質問してきました。
生きるために水を飲む
いろいろな会社で情シスを見てきましたが、IT戦略や企画を必ず情シスが担っていたかといえば、そんなことはありません。
きちんと担っていた情シスもあれば、全く担っていない情シスもありました。
ただし、法則は見えました。
企業の規模拡大に応じて、情シスの役割は変遷するのです。
(規模別の情シス役割)
設立時:情シスはない。各自で必要なPCやシステムを調達
小規模:キッティング、ヘルプデスク、機器管理、インフラ調達
中規模:上記に加え、システム導入・保守、プロジェクト管理・推進
大規模:上記に加え、IT戦略・企画、セキュリティ強化、内製化
「生きるために水を飲む」のごとく、企業が生き残っていくために必要最低限の機能が、情シスに求められます。
何が必要かは、会社のステージが上がるごとに増えていくのです。
手足を動かす「作業系」だけではなく、管理や企画などの「頭脳系」が必要になってきます。
つまり、会社が拡大すると、作業系タスクも増え、頭脳系の役割も増えるため、情シスの「増員」は当然といえます。
しかし、情シスの人数は急には増やせません。
派遣、準委任、外注、アウトソーシングなど形態はさまざまですが、情シスの手が回らない部分を「外部リソース」と組み合わせて、求められる役割を果たしていく必要があります。
情シスとして死守すべき役割
ここで考えたいのは「何を外に出すか」です。
今は情シスのあらゆる役割が、外部のサービスとして提供されています。多くの選択肢から選べます。
役割が増えてきて、情シスが人手不足になったとき、何を外に出すべきでしょうか?
私の考えは「作業系は外に出しても、頭脳系は死守すべき」です。
つまり、「IT戦略・企画」「プロジェクト管理・推進」は、絶対に情シスが自前でやるべきです。
なぜなら、そこを外に譲ってしまうと、情シスが「下請け」になってしまうからです。
会社を「ITドリブン」で成長させたいなら、情シスが積極的にITの活用を考え、主体性を発揮しないといけません。
これらのスキルはすぐに身につかないため、人材育成を長期計画で進めていく必要があります。
簡単なことではありませんが、会社として覚悟をもってリソースを割り当て続けるしかありません。
ここを外に出してしまったら、外注先が変わるたびに連続性がとぎれ、今まで積み上げてきた実績がリセットされます。
会社としてノウハウが蓄積されず、情シスとして考える力も身につかなくなります。
一方で、誰がやっても同じ結果が得られる作業系であれば、極論すると「誰がやってもいい」といえます。常にコストパフォーマンスの良い外注先に切り替えることもできます。
情シスの役割を変えられない根本原因
「それは理想だけど、今の社員はスキル的に無理だから」
この手の話をすると、必ずこのような反論を受けます。
確かに、スキル的に現状の社員が「それしかできない」という現実的な問題はあるでしょう。
そうだとしても、スキルシフトできる可能性のある社員もいるはずです。
付加価値の高いタスクを社員に割り当て、そうでないタスクを外に出す。
文字にすると当たり前に見えますが、実際はそうなっていない現場が多いように感じます。
なぜなら、情シスの部門長自身が、目の前の作業系タスクに忙殺され、思考停止しているからです。あるいは、部門長自身が作業系をこよなく愛しているか…。
まず、情シスの部門長自身が現状に危機感を抱き、未来を設計し、動き出すことが、情シスの役割を変えていく「はじめの一歩」となります。
成長痛を乗り越えてはじめて次のステージに行ける
冒頭のA社はその後「IT戦略チーム」を結成し、今後のロードマップを定義しました。
もともと存在しなかった役割については、いったん外部の協力を得ながら、そこに割り当てた社員を育成していきます。
社員が今まで手を動かしていた「作業系」については、外注先に指示をして、そのタスクを「管理」する立場に変えていきました。
ただし、全員が完全にシフトできたわけではありません。
自分は作業系がやりたいと変えなかった人、合わないと辞めていった人、など内部の混乱が少なからずありました。
でも、現状メンバーのやりたい事だけを優先して、会社全体が機能不全に陥ってもよいのでしょうか?
ステージが変わり、組織を変えていく際に「成長痛」は避けられません。
それを決断した情シスリーダーは、現在、派遣を含めて20名弱を統括する「情シス部長」となりました。
IT戦略に基づき、DXも力強く牽引しています。
貴社のIT部門・情報システム部門は、会社のステージに合わせて役割を見直していますでしょうか?
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情シスコンサルタント
田村 昇平
情シス(IT部門、情報システム部門)を支援するコンサルタント。
支援した情シスは20社以上、プロジェクト数は60以上に及ぶ。ITベンダー側で10年、ユーザー企業側で13年のITプロジェクト経験を経て、情シスコンサルティング株式会社を設立。
多くの現場経験をもとに、プロジェクトの全工程を網羅した業界初のユーザー企業側ノウハウ集『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』を上梓、好評を得る。同書は多くの情シスで研修教材にもなっている。
また、プロジェクトの膨大な課題を悶絶しながらさばいていくうちに、失敗する原因は「上流工程」にあるとの結論にたどり着く。そのため、ベンダー選定までの上流工程のノウハウを編み出し『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』を上梓し、情シスにインストールするようになる。
「情シスが会社を強くする」という信念のもと、情シスの現場を日々奔走している。
著書の詳細は、こちらをご覧ください。