2023
2/02
よく言われる経営者の言葉
「情シスが何名足りないのかを示してほしい」
A社の社長に言われました。その会社は5名の情シス社員がいます。
いつも忙しく、毎日夜遅くまで残業していました。
少しでも人を増やして、負荷分散を図りたいと思うのは当然のことです。
しかも、全員が50歳以上で、超高齢化問題を抱えていました。
あと10年もすれば、今の社員は誰もいなくなります。
社長曰く「情シス後継者問題は深刻」とのこと。
過去に何度か若手を採用しましたが、全員辞めてしまったそうです。
採用活動は毎年頑張っているものの、入っては辞め、入っては辞めの繰り返し。若手が定着せず、高齢化が進んでしまいました。
今やIT人材は売り手市場。
なかなか良い人材をとることはできません。
それを社長はよくわかっていて、危機感をにじませます。
「年収はもっと上げないと他社に取られるのではないか」
「もっと積極的に広告を出さないとダメなんじゃないか」
「フルテレワークも許可しないとダメなんじゃないか」
社長の後継者問題解決への覚悟を感じました。
このような状況で、どう採用活動をしていけばよいのでしょうか?
その情シスは何を守備範囲にしているか
そこで、まずはA社情シスの現状調査を行います。
5名の社員が日々何をやっているかをヒアリングしました。
皆さん忙しいのでかなり煙たがられました。。。
中には、あからさまに敵意を向けてくる人も(苦笑)。
ですが、社長指示とのことで、渋々時間をとっていただけました。
社員の方々の気持ちもわからなくもありません。
そのため、言葉を選びながら、丁寧に確認していきました。
それらの結果を役割一覧表にまとめます。
その結果は、予想通りでした。
情シスの役割が極端に偏っています。
具体的には、以下タスクに集中していました。
・雑多なヘルプデスク
・キッティング
・オンプレサーバーやネットワーク機器の監視と故障対応
・ExcelマクロやAccessクエリーの保守
全員がこれらを5人で負荷分散しています。
この会社は、全国に支店があり、社員数も多いので「これは大変だろうなぁ」と率直に思いました。
では、この状況で積極的に採用活動すれば、解決するのでしょうか?
残念ながら、そんなことはありません。
今の状態を例えるならば「穴の開いたバケツ」です。
いくら人を採用できたとしても、すぐに辞めていくだけです。
それは、過去に辞めていった人たちを見れば明らかです。
採用コスト、キャッチアップのOJTコストだけがかかり、結局は無駄になります。焼け野原が残るだけです。
まずは、穴をふさぐことが先決ではないでしょうか。
では「穴」とは何でしょうか?
・魅力的な役割を与えられていない(ルーティンだけ)
・働きやすい環境を提供できていない(残業地獄)
この2点をまずは解決する必要があります。
そこで、情シスの「人材戦略」を作り、方針を掲げました。
「積極的に外部リソースを活用し、社員は付加価値の高い役割にシフトする」
外注と内製は二極化ではありません。
確かにIT企業は、すべて内製化することに大きなメリットがあるでしょう。
しかし、非IT企業にとっては、すべて内製化することはデメリットの方が大きくなります。
端的にいえば、大量のリソースを持て余します。常にITの仕事が大量に発生する企業だからこそ成り立つ戦略といえます。
非IT企業は「内」と「外」をバランスよく組み合わせて、繁閑調整ができる体制をとり、柔軟に対応していくべきと考えます。
理想と現実のバランスをとる
ただし、ここで難しいのが役割を変えていく「過渡期」です。
情シスのリーダーは、未来への危機感が強かったため、賛同してくれました。
しかし、他の社員はイマイチです。
今のタスクを正当化し、役割シフトに応じてはくれません。
でもそれは仕方がないことです。
人は簡単には変わることができないからです。
年齢が上がればなおさらです。リスキリング(新しいスキルの獲得)の壁も高くなります。
確かに今のタスクも重要です。誰かがやらねばいけません。
そこで10年の長期計画を立て、段階的に変えていく方針としました。
今の仕事に固執するなら、そのまま続けていただきます。
例えば定年退職などのタイミングで、派遣や外注に移すことも計画に入れました。
シフトに応じてくれた2名は、主に外注管理から始めて、プロジェクト管理、システム企画、IT戦略、プロジェクト管理など、今後の「コア業務」と定めた役割に比重を変えていきました。
従来のタスクで穴があいた部分は、派遣や外注でしのいでいきます。
その上で、社長には、これらの「コア業務」の役割に対して募集してもらうようにしました。
すぐに良い人が集まるわけではないので、社員が定着し、戦力となるまでは、外部コンサルや外部ベンダー、派遣メンバーの力を借りることにしました。
希望をもてる職場へ
その後、私は現場を離れましたが、3年ぶりにその社長と会食しました。
情シスの状況を聞いてみると、かなり様変わりしています。
・全面クラウド化でオンプレ管理をなくした
・キッティングやヘルプデスクは外注化
・ExcelマクロやAccessクエリーは半減(最終的には撲滅目標)
そして、定年退職で3名の方がいなくなりました。
新しく外からは、情シス部長を含めて3人が入ったようです。
20代、30代、40代とバランスがとれ、一気に若返りました(笑)
結局、3年前が5名で今も5名で、人数的にはプラマイゼロです。
しかし、A社は穴をふさぎました。
古い役割は外に出し、新しい役割で人を迎え入れたのです。
社長曰く「ようやく情シスに相談できるようになった」とのこと。
今後のDXについて、いろいろなアイデアを話されています。そこに向けて増員も考えているようです。
聞いていてワクワクしました。
おそらく、情シスも以前より楽しいだろうなぁ、と思いました。
貴社の情シスは、意識して役割を見直し、計画的にシフトしていますでしょうか?
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情シスコンサルタント
田村 昇平
情シス(IT部門、情報システム部門)を支援するコンサルタント。
支援した情シスは20社以上、プロジェクト数は60以上に及ぶ。ITベンダー側で10年、ユーザー企業側で13年のITプロジェクト経験を経て、情シスコンサルティング株式会社を設立。
多くの現場経験をもとに、プロジェクトの全工程を網羅した業界初のユーザー企業側ノウハウ集『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』を上梓、好評を得る。同書は多くの情シスで研修教材にもなっている。
また、プロジェクトの膨大な課題を悶絶しながらさばいていくうちに、失敗する原因は「上流工程」にあるとの結論にたどり着く。そのため、ベンダー選定までの上流工程のノウハウを編み出し『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』を上梓し、情シスにインストールするようになる。
「情シスが会社を強くする」という信念のもと、情シスの現場を日々奔走している。
著書の詳細は、こちらをご覧ください。