2023
2/08
よくあるPMO問題
「以前、PMOを外から調達してうまくいかなくて…」
ある会社の情シスからご相談を頂きました。
基幹システム再構築プロジェクトを立ち上げました。
しかし、情シスメンバーはインフラ管理やヘルプデスクに追われて、とてもプロジェクトに入れるメンバーがいませんでした。
背景としては、会社の規模拡大に伴い、情シスの役割が増えてきた時期でもありました。プロジェクトを回せる人材も不足していました。
そこで、外部のコンサルティング会社からPMOメンバーを招集し、プロジェクトを進めます。
しかし、プロジェクトはなかなかうまくいかず、そのPMOメンバーは離任しました。
プロジェクトは約1年の遅れとともに、今もなお苦しんでいるそうです。
ここで考えたいのは、PMOは効果的なのでしょうか?
また、外から連れてきて機能するのでしょうか?
PMO人材のアタリとハズレ
忙しくない情シスなど、どこにもないでしょう。
手が回らない領域に外部の人材を割り当て、全体をカバーしていくのは、情シスとして必須要件だと考えます。
プロジェクトが立ち上がっても、両手にタスクを抱える情シス社員は時間をとれません。
とくに、基幹システムの再構築プロジェクトのような大規模なものは、手厚くプロジェクト管理を行う必要があります。
そのため、外部のPMOメンバーと一緒に回していくのは、むしろ一般的な光景といえます。
私自身も、外部のPMOメンバーとして、これまで14年間いくつものプロジェクトを支援してきました。
だからこそ、当事者として言いたいことがあります。
「PMOはアタリハズレが大きい」
「むしろハズレが多い」
当時の私は、常に5つ以上のプロジェクトが並走していました。とても1人では見きれないので、外部PMOを招いて、回していました。
しっかりと経歴書をチェックして、面接もして「この人なら信頼できる!」と、多くの人をプロジェクトに送り込んできました。
その結果、どうなったのでしょうか?
最初の3か月ぐらいは、どのプロジェクトも順調にみえました。その経過報告を聞いて、私も安心します。
しかし4か月が過ぎたあたりから、そのほとんどのプロジェクトからクレームが入り、その人達は戦力外通告を受けてしまいました。。。
そして、その後は泣きながら全てのプロジェクトの尻ぬぐいに追われます。
私も、外部PMOに丸投げしたツケが回ってきたのだと猛省しました。
そのような失敗を多く経験してきたからこそ、見えてきたことがあります。
「PMOは人間性が出る」ということ。
プロジェクトは後半になるにつれ、想定外のトラブルが多く発生し、必ず厳しい状況に追い込まれる局面が訪れます。
そのような時に、問われるのが人間性。
逃げ出したい状況であっても、当事者意識を「丸出し」で、関係者と泥臭い調整ができるか。
プライドが高すぎたり、失敗を他人のせいにして自己を正当化したり、火中の栗を見て見ぬふりをしたり…、つまり逃げてしまうと、解決が遠のいていきます。
苦しいときに前に進められるかどうか。
もっといえば、人生をかけてでもプロジェクトと心中する覚悟を持っているかどうか。
このような痺れる局面に遭遇し、ほとんどの人が日和ってしまい、逃げ出してしまうから、失敗してしまいます。
こう書いてしまうと、絶望しかないように思えてしまいますが(苦笑)、一方で、まれに救世主のような人も現れます。
次々と人が脱落していく中で、1人だけ諦めず、ブレずに、時には平然と前だけを向いて進めていける人がいます。
この人こそ「アタリ」なのです。
感覚的には10人に1人ぐらいでしょうか。。。
外部PMO人材の選考ポイント
そのため、PMO人材を外から採用する場合は「選考」が非常に重要となります。
失敗する可能性をゼロにはできませんが、あきらかに失敗するパターンを回避し、成功確率を上げていくことはできます。
私の経験上、以下が選考ポイントと考えます。
① 条件は細かく設定する
PMOと一言で言っても、その内容は多岐に渡ります。
「インフラPMO」と「業務システムPMO」では、求められる経験とスキルが全く異なります。
インフラPMOであれば、対象となるサーバーやクラウドの種類、データベースやネットワークの種類、さらにはセキュリティ対応などの実績を細かく指定します。
業務システムPMOの場合は、もっと細かく、その業界・業種の経験があるか、システムの種類も会計・経費精算・販売管理・生産管理・人事労務・営業支援の導入経験など具体的に指定します。
さらに、もうシステムが決まっているのであれば、そのパッケージの導入経験を条件とします。
これら条件のマッチング度合いが高ければ高いほど、その人の経験・ノウハウが活きてくるので、ハズレ確率を下げることができます。
② 選択肢を多くとり、そこから絞り込む
2人~3人の書類をとり寄せて、そこから選ぶ。
一見、普通に見えますが、これだと単なるギャンブルです。ハズレしかない中で相対比較する可能性が高くなります。まずは書類選考で10枚以上、社運がかかった重要なプロジェクトなら20枚は見たいところ。その中で条件に合う人を3人~5人に絞り、面接をしていきます。
ハズレが多いという前提に立ち、なるべく多くの選択肢の中から選んでいくという意識が重要です。
③ 面接は「根掘り葉掘り」聞く
候補者の経歴書に書かれてあるプロジェクトを具体的に確認していきます。どんな業種でどんなシステムだったのか、そしてその人はPMOとして、どのような役割で入り込んだのか。もちろん本人の口から説明してもらいます。
もし、経歴を盛っていたら、詳しく話せないので、抽象的な話で逃げます。具体的な話を引き出して、裏どりをしていきます。
また、PMOの定義は人によって違います。単に表面的な進捗管理や課題管理だけすればよいと考える人も少なくありません。苦しい時はなかったのか?その時にどう解決したのか?ユーザー部門とどうコミュニケーションをとったのか?も聞くべきポイントです。
ファシリテーションを誰がやっていたのか?も確認します。PMOとして「当然自分でやっていました」という回答を聞きたいところです。
④ 小さい会社よりも、ある程度の規模の会社
PMOはつまるところ人の質。だから人さえよければ会社は関係ない。
そう考えた場合、小さい会社の方が単価が安くなるので、お得です。ただし、それはアタリの前提です。もしハズレを引いた場合はどうなるのでしょうか?
小さな会社は交代要員をすぐには準備できません。その点、大きな会社であれば、すぐに交代要員を出せます。会社としてバックアップを考えた場合、小さい会社はリスクです。
「この人!」と思える人が見つかればいいのですが、そうでない場合はある程度の規模の会社から来てもらって、リスク費用を払うという考えも持つべきでしょう。
⑤ 信頼できる人からの紹介は信頼度が高い
経歴書は自己評価のため、盛ることができます。一方で、紹介の場合は第三者の評価のため、信頼度は上がります。
もし信頼できる人が「このPMOはすごくイイ!」とお墨付きを出しているなら、その人はきっと信頼できる人でしょう。
その人は、PMOの人間性やプロジェクトに取り組む姿勢を客観的に評価しています。
他の部署やプロジェクトで、良い人がいないかどうかを聞いてみるのも1つの手です。
⑥ 年齢は高すぎない方がいい
経歴だけ見ると、年齢が高いほど多くの実績があり、スキルが高く見えるのは当然のこと。
一方で、仕事のやり方が確立されているので、柔軟性には欠けます。
また、管理する情シス側の年齢が一回り下となると、コントロールしにくくなります。指示を聞いてくれなかったり、何か指摘しても相手にされなかったりします。働き方も確立しており、踏ん張り時であっても一切残業をせず、自分主義を貫く人もいます。
さらに悪い意味で達観してしまい、苦しいときに「これはXXが悪いので仕方ない」と粘り腰に欠け、負け戦を察したとたんに逃げていくこともあります。
なぜここまで力説するかというと、私はこのケースで何度も泣かされてきたからです。
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時間が限られた中で、もう目の前の人材に決めてしまいたい気持ちはわかります。
しかし、PMOの選考が1週間延びるのと、その後のプロジェクトが半年~1年延びるのと、どっちを選んだ方がよいのでしょうか?
はやる気持ちをぐっと我慢して、妥協はしないことです。
長期的な人材戦略
冒頭の情シスの方々に、上記の選考ポイントはお伝えしました。
細かい部分では、値切り交渉や具体的な会社名もお伝えしました。
一方で、情シスとして拡張期に入り、役割もシフトしていく必要があります。
貴重な社員には、より付加価値の高い仕事にシフトしたいものです。
外部とコラボレーションしながらも、情シス社員の「育成」も待ったなしです。
むしろ、長期的にはそちらの方が重要となります。
最初は外部のPMOメンバーの支援を仰ぎつつも、社員をペアで張り付かせ、プロジェクトを通じたOJTとして育成すべきです。徐々に社員の役割を増やしていき、いずれは1人でプロジェクトを回していけることを目指します。
そして社員の経験値があがると、情シス内でシェアや指導が行えるようになり、情シスにノウハウが溜まるようになります。
すると、さらにプロジェクトを安定的に回し、品質も高めていけます。
情シスが好循環を生み出し、情シスこそが会社の「成長エンジン」となっていくべきです。
貴社のIT部門・情報システム部門は、うまく外部のPMO人材を活用できていますでしょうか?
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情シスコンサルタント
田村 昇平
情シス(IT部門、情報システム部門)を支援するコンサルタント。
支援した情シスは20社以上、プロジェクト数は60以上に及ぶ。ITベンダー側で10年、ユーザー企業側で13年のITプロジェクト経験を経て、情シスコンサルティング株式会社を設立。
多くの現場経験をもとに、プロジェクトの全工程を網羅した業界初のユーザー企業側ノウハウ集『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』を上梓、好評を得る。同書は多くの情シスで研修教材にもなっている。
また、プロジェクトの膨大な課題を悶絶しながらさばいていくうちに、失敗する原因は「上流工程」にあるとの結論にたどり着く。そのため、ベンダー選定までの上流工程のノウハウを編み出し『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』を上梓し、情シスにインストールするようになる。
「情シスが会社を強くする」という信念のもと、情シスの現場を日々奔走している。
著書の詳細は、こちらをご覧ください。