2023
11/02
理想と現実
「5人も増やすのは絶対に無理です」
ある現場で、情報システム部の部長が「情シス役割To-Be」を定義しました。
新しい役割が増えて、圧倒的に人手が足りません。これをすべてやるには、人を増やす必要があります。
何名必要かを試算してみると「5名」も足りません。
しかし、そんなに多くの増員が承認されるわけがありません。経営層から見れば、十分に人がいるように見られています。
とはいえ、新しい役割を縮小していくと、現状に逆戻りです。
To-Beを描いた理由は、今の延長線上ではない、情シスを成長軌道に乗せ、組織変革を成し遂げたいからです。
それなのに、このままではTo-Beが「絵に描いた餅」となりかねません。
この後、どのように進めていけばよいのでしょうか?
まずは地ならし
情シスの組織戦略の第一歩は「ありたい姿」を描くことです。
それが「情シスTo-Be」となります。
この次のステップは何でしょうか?
それは「省力化」です。
未来を見据えた上で、現状に目を向けていきます。
人を増やす前に「地ならし」をして、受け入れ体制を整えます。組織を「筋肉質にする」と言い換えることもできます。
現在のまま人を増やしてしまうと、今の仕事のやり方が「聖域化」してしまいます。ダラダラ仕事をしたり、改善の余地があったとしても、組織として現状を肯定してしまうことになります。
情シスの生産性を上げるには、現状の工数を分析し、多くの工数がかかっているタスクの改善を行うことが先決です。
現状の役割をより少ない人数で回すことができれば、浮いた人員を新たな役割に投入できます。
そうすることで、本当に必要な増員数を抑えることができます。
まずは情シスを「筋肉質」にし、その後に「増員」というステップが重要です。
省力化の観点
では、情シスの具体的な「省力化」の方法を考えていきます。
現状の工数を可視化したら、次の3つの問いかけに対して、実現可能な手段を検討していきます。
① タスクを移管できないか?
・ユーザーに移管(業務システム問い合わせ受付等)
・保守ベンダーに移管(保守契約見直し等)
・アウトソーシング(セキュリティ・ログ監視等)
② タスクをそもそも無くせないか?
・オンプレをクラウド化し、物理的な保守からの解放
・古いプロセス廃止(ペーパーレス、押印レス等)
・手作業プロセスの自動化(マクロ、RPA等)
・その他、ユーザー側で自己完結する仕組み化
③ タスクを効率化できないか?
・問い合わせを減らす(FAQ、チャットボット、マニュアル改修)
・ヘルプデスク効率化(回答ノウハウ蓄積、共有等)
・保守性の悪いシステムの改修、入れ替え
・保守サービスの悪いベンダーのチェンジ
・ユーザID管理効率化(IDaaS、EIAM等)
・キッティング効率化(ゼロタッチ、外注等)
上記は一例に過ぎませんが、現状のタスクを全て棚卸ししてみて、その全てを疑ってみることです。
「そもそも必要なのか」「そもそもやり方は正しいのか」「そもそも情シスがやることか」など「そもそも」の観点で疑ってみることで、現状の延長線上にはない変革レベルの施策につながっていきます。
情シスメンバーを巻き込む
「ウチには無駄が多くありましたが、このタイミングで見直しができて良かったです」
冒頭の情シス部長は、現行の全タスクの工数を可視化し、改善を検討していきました。
情シスメンバーにも具体的なアイデアを募集し、多くの施策が集まります。
その後、各領域のエースとやる気のある若手を中心に「情シス改善WG」を立ち上げました。各施策についてはWBSを引いて、担当者を決めて、活動を進めています。
来期の増員については「5名」ではなく「2名」で予算を申請しました。
貴社のIT部門・情報システム部門では、「増員」の前に「省力化」を検討できていますでしょうか?
コラム更新情報をメールでお知らせします。ぜひこちらからご登録ください。
情シスコンサルタント
田村 昇平
情シス(IT部門、情報システム部門)を支援するコンサルタント。
支援した情シスは20社以上、プロジェクト数は60以上に及ぶ。ITベンダー側で10年、ユーザー企業側で13年のITプロジェクト経験を経て、情シスコンサルティング株式会社を設立。
多くの現場経験をもとに、プロジェクトの全工程を網羅した業界初のユーザー企業側ノウハウ集『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』を上梓、好評を得る。同書は多くの情シスで研修教材にもなっている。
また、プロジェクトの膨大な課題を悶絶しながらさばいていくうちに、失敗する原因は「上流工程」にあるとの結論にたどり着く。そのため、ベンダー選定までの上流工程のノウハウを編み出し『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』を上梓し、情シスにインストールするようになる。
「情シスが会社を強くする」という信念のもと、情シスの現場を日々奔走している。
著書の詳細は、こちらをご覧ください。