2023
12/07
コンサルの即戦力採用
「即戦力を採用できました!」
ある現場では、情報システム部(情シス)の部長の後継者を育成するため、幹部クラスの採用活動を続けていました。
そして、某コンサルファームから40代の男性、Aさんを採用します。
IT人材の幹部クラスは、完全なる売り手市場のため「大金を出さないと良い人は取れない」と、なんと情シス部長以上の高給で迎え入れました。
鳴り物入りで入社したAさんは、ヤル気十分です。早速、基幹システム導入プロジェクトに入りました。
さすがはコンサルです。各部のヒアリングもうまく、言葉も丁寧、資料作成もお手の物です。各部の評判も上々で、今後の期待も膨らみます。
そこで情シス部長は、Aさんの下に部下を3名つけました。部として「プロジェクト推進スキル」の強化を図ります。
6ヶ月後
6ヶ月後、事態は急変します。
ユーザー部門の部長から「Aさんを外してくれ」とクレームが入りました。
同じく、ベンダーからも「Aさんに困っている」と相談がありました。
忙しい情シス部長は、Aさんにプロジェクトを全面的に任せていました。Aさんからは順調だと報告を受けたばかりです。
Aさんは部長に対して、とても丁寧かつ論理的に説明をし、お願いしたことはきちんとやってくれるので、Aさんへのクレームが理解できませんでした。
いったい、何があったのでしょうか?
空中分解
情シス部長は、関係者にヒアリングしました。
(情シスメンバー)
・最初はAさんからタスクを受け取り、頑張っていた
・でもうまくできなくてAさんに多くフォローしてもらった
・進捗が悪かったので、朝会をやるようになった
・さらに夕会でも進捗報告するようになった
・徐々に言動がきつくなり、誰も逆らえなくなった
・巻き取ってもらえる手前、夜遅くまでAさんが終わるまで帰れない
(ユーザーメンバー)
・資料はすべてAさんが作って依存していた
・土日もAさんは資料を作成し、メールしてきた
・進捗が遅れたので、土日も会議が開催され、参加させられた
・Aさんが一番頑張っているのは理解しているが、すべてをAさんに握られているようで、とても苦しい
(ベンダー)
・Aさんの指摘にメンバーが萎縮している
・どんな資料を出しても、重箱の隅をつつかれてやり直しとなる
・窓口をAさんから別の人に変わってほしい
プロジェクト関係者はAさん着任の6ヶ月後、我慢の限界を超えてしまい、空中分解してしまったのでした。
コンサルの特徴
ここでいったん、コンサルタントについて整理してみます。私自身が長い間、コンサル業界にいたので、良くも悪くもコンサルを身近で感じてきました。
(コンサルのすごいところ)
・資料作成が得意
・説明・プレゼンがうまい
・主体的に動ける
・上司の負担を軽くできる
情シス部長からみると、とても魅力的な人材です。即戦力として右腕にしたいところです。ですが「切れ味の鋭い包丁」は相応のリスクがあることも押さえておくべきです。
(コンサルのリスク)
① 関係者と軋轢が生じる
情シス、ユーザー、ベンダーに対して、弁が立つがゆえに、無駄に論破してしまいます。その結果、周りに敵を多く作りがちです。
② ブラックボックス化
コンサルは、資料作成から関係調整まで、全てやれてしまいます。そのため、上司は全てを「丸投げ」してしまいます。その結果、全てを知っているのはコンサルだけ、という状況に陥ります。
③ ボトルネック化
タスクが遅れた場合、その人を見限り、自ら巻き取ることができます。タスクを巻き取り続けた結果、膨大なタスクを抱え、全体が回らなくなります。しかし、巻き取ってもらっている手前、遅れても誰も文句を言えません。全員がコンサルのアウトプット待ちになってしまいます。
これらコンサルの特徴をふまえ、情シス部長はどうすべきだったのでしょうか?
情シス部長の反省点
私は、情シス部長に以下2つの反省点があったと考えます。
① 丸投げしてしまった
情シス部長はとても忙しいため、全自動で丸投げできる部下をつい望んでしまいます。気持ちはわかります。でも、要所では会議に出席し、自身の目で状況を把握すべきでした。Aさんにすべてが集中し、負荷が高すぎることを察知できていれば、体制を組み直せたかもしれません。追い込まれなければ、関係性がこじれることもなかったかもしれません。
② 部下よりもAさんを信じた
Aさんは部下が使えないと嘆いていました。Aさんの部下も、何かしらアラートを出していたはずです。ですが、Aさんの方を信じてしまいました。Aさんは、部長の前では紳士ですが、目下の人には攻撃的な人格が発動していました。優秀な人物を自分の右腕にしたいという願望が強すぎて、Aさんが正しいという、都合のよい解釈をしました。もっと客観的に判断すべきでした。
コンサルは腕は立ちますが、部下の育成やユーザーの巻き込み方に「圧」が出るときがあります。チームプレーが雑になるときがあります。
コンサルはベクトルが合えば100人力ですが、合わなければ空中分解となります。つまり劇薬です。
情シス部長が忙しいのはわかります。自分の分身として代理出席させ、より多くの事案に関わり、より多くのことを成し遂げたいという思いも立派です。
しかし、自分が楽になった分の「代償」と、自分が関わらなかった分の「リスク」を甘く見積もってしまったのかもしれません。
コンサルが情シスに合わないとは思っていません。
もう少し慎重に推移を見守り、軌道修正ができていれば、違った未来があったのかもしれません。
その後
「かばいきれなくなりました…」
Aさんを信じたい気持ちはあったものの「会議の録音データ」を聞いてAさんの別の顔を知ってしまいました。
情シス部長は苦渋の決断をします。Aさんをプロジェクトから外しました。
遊ばせるわけにもいかないので、別の小さなプロジェクトにアサインします。ただし、予算もついていないので、活動も限界がありました。
その後、Aさんは3か月後に辞めていきました。
情シス部長は、残された基幹システムプロジェクトを巻き取ります。
丸投げした代償として、それ以上の工数をかけてやる羽目になったのです。
ただし、残されたAさんのアウトプットは立派でした。これら資料の影響を受けて、部下の資料作成の質が向上したのが、せめてもの救いです。
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情シスコンサルタント
田村 昇平
情シス(IT部門、情報システム部門)を支援するコンサルタント。
支援した情シスは20社以上、プロジェクト数は60以上に及ぶ。ITベンダー側で10年、ユーザー企業側で13年のITプロジェクト経験を経て、情シスコンサルティング株式会社を設立。
多くの現場経験をもとに、プロジェクトの全工程を網羅した業界初のユーザー企業側ノウハウ集『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』を上梓、好評を得る。同書は多くの情シスで研修教材にもなっている。
また、プロジェクトの膨大な課題を悶絶しながらさばいていくうちに、失敗する原因は「上流工程」にあるとの結論にたどり着く。そのため、ベンダー選定までの上流工程のノウハウを編み出し『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』を上梓し、情シスにインストールするようになる。
「情シスが会社を強くする」という信念のもと、情シスの現場を日々奔走している。
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