2024
2/02
経営企画部からの依頼
「情シスを立て直したい」
A社の経営企画部の方から相談がありました。
弊社は情シスを支援する会社ですが、実は情シス以外の部署から相談を受けることはよくあります。
その場合は必ず、この相談を持ちかけられます。
A社では、情シスが経営企画部の下にぶら下がっています。
今後、ITやデジタル化で「DX」を進めていくのが全社方針となり、その中心となるべき情シスを立て直したい、とのこと。
現在、A社の情シス7名は、運用・保守に忙殺され、いつも遅くまで残業しています。このままでは、今後のITやデジタルの導入に積極的に関わることができません。
人手不足を解消しようと若手を採用しても、定着せずに辞めていきます。そのため、平均年齢も50歳を超え、高齢化問題も出てきています。
そこで、A社の情シス管理者と面談することにしました。
マニュアルを作る余力もない
「派遣を入れてみてはどうですか?」
情シス管理者に尋ねてみました。すると
「派遣にお願いしたいんですけどね、ウチは無理なんですよ」
「ウチの業務は特殊なので、業務を知らないとできないんです」
「現場はクセの強い人が多くて、社員でないと対応できません」
と言われました。そこで
「マニュアルや業務がわかる資料を見せてもらえますか?」
とお願いすると
「マニュアルはありません。それを作る余力もありません」
とのこと。この現場は、どう立て直していけばよいのでしょうか?
プレイングマネージャーという弊害
実は、経営企画部から相談を受けた時点で、薄々わかっていました。
情シスが忙殺されて機能しない原因は「情シス管理者の意識の低さ」なのです。
管理者は「属人化」をなくそうとしていません。それは「マニュアル」を作る気がないのが証拠です。
メンバーをアサインして、丸投げ放置するだけで、「管理」をしていません。
そして、自分は大好きなPCやサーバーをいじって、たまにヘルプデスクに身を投じているだけです。
そもそも、情シスの現状を改善しようと思っていません。
変に改善してしまうと、新たに仕事が降ってきて、プロジェクトなど面倒に巻き込まれてしまうため、不都合なのです。
現場叩き上げで管理者になったものの「プレイングマネージャー」として、実質は担当者のままです。それぞれの「職人の世界」を創り出しています。
マニュアルはあえて作らないのです。それが参入障壁となり、派遣すら拒む独立国家となっていたのです。
情シス管理者の責務
この現場を立て直すにはどうすれば良いのでしょうか?
方法は1つしかありません。
管理者の交代です。
この管理者とお話しして、人柄はとても良かったので、少し気は引けます。
しかし、担当者ならまだしも、7名の組織の長です。
マニュアルを作らないということは、属人化を蔓延させるということです。それは、誰かが病欠や退職等で、一気に業務が回らなくなるリスクに対して何もしていない、ということです。
組織設計を怠り、若手を失望させ、情シスが全社DXのブレーキになっているのなら、それは大きな責任があります。
個人の思想やスタンスために、会社全体が犠牲になってよいのでしょうか。
私は経営企画部に決断を迫ります。その結果、経営企画部の管理職に情シスの管理者を担っていただくことになりました。
定型タスクの洗い出し
その後、タスクを分析してみると、派遣に任せられそうな「定型タスク」は多くありました。
PCキッティング、アカウント管理、パスワードリセット、基幹システムの設定、サーバー・ネットワークの監視、ストレージの権限付与、等々…。
これらのマニュアルがないため、新しく人が来たとしても、すぐに立ち上がらなかったのです。やり方を聞こうにも、忙しくしている中で聞けずに待たされます。
こんな状態では、やる気のある若手が定着する方が難しいでしょう。将来にわたりこれをやり続ける未来を見せられると、逃げ出すのも当然といえます。
会社制度の問題
ただ、この件に関しては、一概にこの管理者が悪いとは思いません。会社として「年功序列」で担当者を管理者に引き上げたのが根本的な原因だと考えます。
現場のエンジニアには、生涯現役で専門職・技術職を志向する人も少なくありません。
しかし管理者の立場になると、マネジメントや組織設計など、別の役割が増えます。そのため、「今まで楽しくやっていた時間を奪われる」という感覚を持つ人もいるかもしれません。
人それぞれ志向が違う中で、選択肢を示し、納得し、長く活躍してもらうための「キャリアパス」を作っていくのも、今後のA社の課題となります。
情シス2.0
「まるで違う組織になりました」
あれから3年が経ち、相談してきた経営企画部の人が言われました。
現在は、派遣を3名雇い、さらにアウトソーシングも組み合わせて、社員以外が担当するタスクが大幅に増えました。もちろん「マニュアル」は完備されています。
そして、情シス社員は別タスクにシフトしていきました。
プロジェクト活動(PMO支援)、BI強化(内製)、クラウド活用・管理、セキュリティ強化など、以前は手掛けていなかった領域に拡張しています。
とても有望な若手も2名加わりました。
全社的な影響力が大きくなり、情シスが部に昇格する話も出ているそうです。
なお、先代の情シス管理者はインフラ担当として専念でき「前よりも楽しい」とのことでした(とても安堵しました…)。
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情シスコンサルタント
田村 昇平
情シス(IT部門、情報システム部門)を支援するコンサルタント。
支援した情シスは20社以上、プロジェクト数は60以上に及ぶ。ITベンダー側で10年、ユーザー企業側で13年のITプロジェクト経験を経て、情シスコンサルティング株式会社を設立。
多くの現場経験をもとに、プロジェクトの全工程を網羅した業界初のユーザー企業側ノウハウ集『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』を上梓、好評を得る。同書は多くの情シスで研修教材にもなっている。
また、プロジェクトの膨大な課題を悶絶しながらさばいていくうちに、失敗する原因は「上流工程」にあるとの結論にたどり着く。そのため、ベンダー選定までの上流工程のノウハウを編み出し『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』を上梓し、情シスにインストールするようになる。
「情シスが会社を強くする」という信念のもと、情シスの現場を日々奔走している。
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