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情シス部長の組織戦略 〜メンタル不調から復帰したメンバーとどう向き合うか〜

2024

4/12

情シス部長の組織戦略 〜メンタル不調から復帰したメンバーとどう向き合うか〜

とても複雑な心境の情シス部長

「実際に見ないとわからないので、今すぐそちらに行きますね!」
ヘルプデスクを元気にこなすAさん。

「ベンダーから出てきた資料が微妙なので、指摘しまくっています!」
インフラベンダーとの調整を張り切るBさん。

ところが、その情シス2名を複雑な思いで見ている人がいました。

情シス部長のXさんです。

3年前、基幹システム再構築プロジェクトでAさんとBさんを「PMO」にアサインしました。ところが、プロジェクトをうまく進められず、体調を崩し、2人とも離脱してしまいます。

X部長は、その穴を埋めるべく、フル稼働しました。平日だけでは足りず、休日出勤も含めて、何とか乗り切ります(異常残業でした…)。

2人ともプロジェクトの途中で復帰しましたが、メンタル不調が考慮され、プロジェクトには戻されませんでした(そして、残業地獄のX部長を尻目に、毎日定時で上がっていました…)。

その後、X部長はいろいろ苦しみながらも、基幹システムは無事にリリースできました。

そんな経緯があるため、元気な2人を見てもX部長は複雑なのです。

情シス部長の正直な気持ち

X部長と個別に話をしました。愚痴が止まりません。深いため息を20回ぐらい聞きました(苦笑)

・人が潤沢ではないから、各人が多方面をカバーしないといけない
・守りだけではなく、攻めもやってもらわないと困る
・組織として、好きなことだけやるワガママは許されない
・担当者はメンタル不調といえば逃げられるけど、責任者は逃げられない
・でも今は雑談しながらダラダラ仕事している
・他の頑張っているメンバーに示しがつかない
・仕事への意識や姿勢が低すぎるのではないか
・腐ったみかんは周りも腐らせるのではないか

その気持ちは十分にわかります。私もX部長に付き合い、プロジェクトで多くの困難に巻き込まれたからです。当時は本当に辛かったです…。

一方で、本ケースは情シスにとっては「あるある」といえます。

プロジェクトでうまくいかず離脱して、復帰後は別のところで元気になる。

このような光景を、私は何度も見てきました。

「あるある」なので、情シス部長として本ケースは「達観」していないといけません。

今後、X部長はどのように折り合いをつけていけばよいのでしょうか?

どうしようもない現実

まず、中小企業の情シスは人が潤沢ではありません。

現在、この会社は情シス5名体制ですが「現状戦力」で戦うしかありません。

人が欠けても、すぐに補充されるわけでもありません。

嫌いな人をどんどん弾いていくと、情シスは誰もいなくなるかもしれません。

無理強いして、急に辞められる方が困ります。

ここは、管理者としての「器の大きさ」が試されています。

まずは、この「どうしようもない現実」を受け入れなければなりません。

PMOの難易度への理解

次に、プロジェクト管理(PMO)の難易度の高さも理解する必要があります。

プロジェクトは困難だからこそ、プロジェクト化されています。

うまくいかず、離脱するケースは珍しくもありません。

特に「基幹システムプロジェクト」は、影響が大きく、関係者も多いため、そもそも難易度が高いのです。ユーザーとベンダーの板挟みとなり、役員による進捗管理のプレッシャーもすさまじく、精神的に「ギブアップ」してしまいやすい環境といえます。

そのため、情シスメンバーにとっては、制御可能なITシステムとは異なり、制御不能な人間と対峙する「異能」が求められます。
・自力だけでは進まず他力を使うための泥臭い根回し
・思い通りに周りが動かないときの忍耐力
・変なプライドを捨てて、相手を立てて利を取る
など、ITスキル以上に総合的な「人間力」が問われます。

そのため、気合いだけで乗り切ろうとしても、空回りし、精神的に追い込まれ、潰れていくのです。

一定の確率で離脱者が出るのは、仕方ないのです。

見方を変えると、「気づいてあげられなかった」「支えてあげられなかった」「アサインが不適切だった」とも言えます。

他責ではなく、自責と捉えることもできます。

情シス部長にとっては、選ぶほど人がいないし、構ってあげられる余裕がないのは承知しています。

それでも、プロジェクトには魔物が住んでいます。

離脱者を責めても、仕方ないのです。その負のエネルギーはもったいないのです。

中長期で捉える

現状、5名規模の情シスが「守り中心」となっているのは、仕方ありません。

今までは「守り」が最重要だったからです。

状況が変わり、今は「攻め」が求められています。

しかし、今まで守りしかやってこなかったので、攻め方を知らないのです。

理想は、5名全員が守りから攻めにシフトすること。

しかし、シフトできない人は必ず出てきます。

特に年齢が高く、引退が視界に入っている人は、今さら変えたいと思っていない可能性が高いです。仕事のスタンスも確立されており、新しいチャレンジに魅力を感じていないかもしれません。

その人を変えようとしても、無理だと思います。

そこは、ポジティブに考えて「今まで守りで会社に長年貢献してきた」「守りを安定化してくれる」「守りも重要」「自分にはできない」と考えましょう。すると感謝の気持ちが生まれます。

そのうえで、組織戦略を「中長期」で柔軟に捉えてみてはどうでしょうか。
・守りを定型化/標準化し、徐々に派遣やアウトソーシングに変える
・だが、高齢メンバーは、引退までその役割を全うしてもらう
・若手メンバーを積極的に攻めにチャレンジさせる
・足りない領域は外部メンバーに支援してもらう
・人が入れ替わるタイミングで緩やかにシフトしていく

組織は、すぐには変えられません。中長期で考える必要があります。

それでも、組織戦略は大事です。ズルズルと行かないためにも。

情シス部長とメンバーは違う

そして最後に、情シス部長(責任者、管理者、マネージャー)と情シスメンバーは違います。

私はこれまでいろいろな現場を見てきましたが、総じて情シス部長は、メンバーよりも責任感が強いと感じます。自己研鑽の意識も高く、仕事のスタンスもプロフェッショナルです。自分中心ではなく、チーム観点や周りへの影響、全社俯瞰で物事を考えます。

そのため、自身とメンバーとで比較してしまうと、足りない部分がどうしても多く目についてしまいます。

でも、情シス部長は他メンバーとは違うから、情シス部長なのです。

自分の価値観を押し付けると、メンバーとすれ違います。

組織は「多様性」があるから、それぞれの長所を持ち寄って、チームとして大きなことを成し遂げられます。

情シス部長だからこそ、各メンバーの特性を見極め、適切に配置する。

組織設計ができるのは、情シス部長の特権です。

だからこそ、チームとしてパフォーマンスを出せたときの充実感や達成感は、メンバーとは比較にならないほど大きいのではないでしょうか。

情シス部長は、ITの総合力で企業を変革に導ける。

とても魅力的な職業だと考えます。

全体のバランス

「気持ちが楽になりました」

X部長は、AさんとBさんの役割シフトはあきらめました。

その代わり、今の守りタスクを強化してもらいます。効率化し、標準化して、高度化するための目標設定を一緒に定めました。その時のAさんとBさんの前向きな姿勢を見て、印象が大きく変わったようです。

AさんとBさんはともに年齢が高く、任期が長いわけではありません。その間は外部コンサルタントと派遣メンバーの支援を受け、ノウハウを蓄積しながら、攻めのパワー不足を補うことにしました。

この組織戦略を定めてからというもの、X部長のストレスはなくなったとのこと。適材適所でメンバーを見ることで、過度な期待値とのギャップがなくなったようです。

一方で、30代の若手にはシフトさせ、大きな期待を寄せています。

このように時間軸を長くとり、選択肢を組み合わせ、全体のバランスで捉えることも大事だと思います。

貴社のIT部門・情報システム部門は、中長期の組織戦略をもって、現在のチームを俯瞰できていますでしょうか?

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情シスコンサルタント
田村 昇平

情シス(IT部門、情報システム部門)を支援するコンサルタント。

支援した情シスは20社以上、プロジェクト数は60以上に及ぶ。ITベンダー側で10年、ユーザー企業側で13年のITプロジェクト経験を経て、情シスコンサルティング株式会社を設立。

多くの現場経験をもとに、プロジェクトの全工程を網羅した業界初のユーザー企業側ノウハウ集『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』を上梓、好評を得る。同書は多くの情シスで研修教材にもなっている。

また、プロジェクトの膨大な課題を悶絶しながらさばいていくうちに、失敗する原因は「上流工程」にあるとの結論にたどり着く。そのため、ベンダー選定までの上流工程のノウハウを編み出し『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』を上梓し、情シスにインストールするようになる。

「情シスが会社を強くする」という信念のもと、情シスの現場を日々奔走している。

著書の詳細は、こちらをご覧ください。