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プロジェクト体制図から透けて見えるベンダー大企業病

2024

9/26

プロジェクト体制図から透けて見えるベンダー大企業病

見覚えのあるプロジェクト体制図

「またこのパターンか…」

あるユーザー企業から「プロジェクトがうまくいっていない」とのことで相談を受けました。

話を聞いてみると、某大手の有名ベンダーです。それなりに大きな費用を支払っています。

そこで、プロジェクトに関連する資料をざっと拝見したところ、ある資料で引っかかりました。

それは、ベンダーが作成した「プロジェクト体制図」です。

この体制図のパターンには、見覚えがあります。

私が過去に苦しんだパターンにそっくりです(苦笑)

そのパターンとは、何でしょうか?

大企業ベンダーの体制図

大企業ベンダーのプロジェクト体制図には、ある特徴があります。

それは、体制図の「上半分」だけが、やたら分厚いということ。

通常は「プロジェクトマネージャー」が上の方に記載されており、せいぜいその上は「プロジェクト責任者」ぐらいです。

ところが、この体制図は、プロジェクトマネージャーが真ん中に書かれています。その上に、さらに「3階層」ありました。

全体責任者、プロジェクト統括責任者、プロジェクト責任者・・・。

さらに、その横には、営業部も「3階層」ありました。

営業統括責任者、営業責任者、営業担当者・・・。

そして、肝心の「下半分」には、あまり名前が記載されておりません。

かろうじて、各リーダーの名前は書かれてありますが、その配下のメンバーは名前がほとんど書かれていませんでした。

大企業病

まず、率直にこのベンダーは「大企業病」だなと思いました。

プロジェクト体制図の「上半分」に記載された責任者の人たちは、ほぼプロジェクトに顔を出しません。せいぜい、ステコミに出席するぐらいでしょう。

彼らはプロジェクトの実態を知らないので、会議に出席しても、発言ができません。関心があるのは「スケジュール」と「コスト」が予定通りか、だけです。最後に、そこだけ総括的にコメントする程度です。

営業の人たちも、契約するまでは非常に熱心ですが、プロジェクトが開始するや否や、まったく顔を見せなくなります。次に顔を見せるのは、ニコニコしながら追加費用の見積書をもってくるときぐらいです。

そして、下半分のプロジェクトメンバーを「バイネーム」で書けないのは、協力会社で構成されているからです。自社の社員ではないので、アサイン確定まで名前が書けなかったのだと思います。

そこで確認してみると、やはり「リーダー以下」はほとんど協力会社でした。

つまり、社員は「プロジェクト管理」だけを行い、それ以外はすべて協力会社に丸投げしていることになります。

格落ちPM

この体制で機能すればよいのですが、なかなかうまくいきません。

なぜなら、協力会社をコントロールするには、「プロジェクトマネージャー(以降、PM)」に相応の実力が求められます。そのPMが実力不足だからです。

大企業ベンダーも、今は需要に体制が追いつかず、人手が足りません。そのため、よほどの重要プロジェクトや超得意先プロジェクトではない限り、残っている社員を割り当てます。

それは、顧客に切られた残念な社員や、経験の浅い若手だったりします。そのような人は総じて、業務理解力や技術力、リーダーシップなどが不十分です。何か課題が発生しても自力で解決できず、協力会社に依存するだけです。

それでも、社員がPMになれてしまうのは、社員だからです。この社員は、協力会社のメンバーを操縦し、顧客に取り繕うスキルだけが上達していきます。

もし顧客に何か質問されたら「内部で確認します」「強く指示しておきます」とその場を取り繕いますが、自力では相談に乗ることもできません。

言ってしまえば、ただの「仲介屋」です。ユーザーとベンダーの間に「伝言リレー」が生じ、ここがボトルネックになったりします。しかも、PMは伝言も正しく再現できません。結局は、関係者を集めることになり、二度手間となります。

そのため、時間が経つとともに、プロジェクトのスケジュールが遅延し、課題が大量に積み残っていくのです。

上半分の用法

そこで、ベンダー側のPMがうまく回せているかを確認してみました。

すると「業務を理解していない」「質問しても回答をもらえない」「なぜPMなのか理解に苦しむ」など、想像通りでした(苦笑)

では、どうすればいいのでしょうか?

「ベンダーPMチェンジ」です。

幸い、大企業ベンダーの体制図の上半分には「お偉い方々」がたくさん書かれています。その偉い人たちに、直接掛け合うのです。ステコミには出席してもらえるので、そこで個別相談を持ちかけます。

「プロジェクトがうまくいっていないので体制について見直したい」と相談すれば、乗ってくれます。なぜなら、その偉い人たちにとっても、プロジェクトの失敗は、立場上困るからです。

幸いなことに、偉い人たちには「社内権力」があります。自社の社員リソースに手を突っ込み、社内のエース級の人材を引っ張ってくることができます。

プロジェクトがうまくいかない時こそ、この上半分の人たちと積極的にコミュニケーションをとるべきです。そして、ベンダー体制の立て直しを働きかけるのです。

V字回復

問題があるから私が呼ばれるのですが、私はこの「ベンダーPMチェンジ」に何度も立ち会いました。

そのようなプロジェクトは全て、大きく改善しました。

なぜなら、PMがエース級に交代し、さらにベンダー側の経営層バックアップが強くなるためです。ベンダー側の全リソースを投入し、プライドにかけて成功させようと動くからです。

ちなみに、協力会社メンバーをPMにしてもらったこともあります。技術と業務の両面に明るく、ユーザーからも絶大な信頼を受けていました。その人を猛プッシュします。ベンダー側は嫌がっていましたが、成功のために渋々、飲んでもらいました。そのプロジェクトも、V字回復しました。

打てる手は打つ

「簡単に人を切るのは薄情ではないか」

と思われるかもしれません。

ベンダー側の体制に首を突っ込むのも、野暮だとは思います。他社に対してそのような権限もないので、相談しかできません。

しかし、こちらも「社運」がかかっているのです。大きなお金も払っていますし、自社の社員も大量に投入しています。

変に情をかけて、自社の船を沈没させるわけにはいきません。

そもそも、自社の大切なプロジェクトなのに、なぜ微妙な人材をPMとして送り込んでくるのか。そこに問題があるなら、改善するのは当たり前の話です。

ビジネスとして、成功のために打てる手を打っていくだけです。

貴社プロジェクトのベンダー体制図は、「上半分」が分厚いですか?

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情シスコンサルタント
田村 昇平

情シス(IT部門、情報システム部門)を支援するコンサルタント。

支援した情シスは20社以上、プロジェクト数は60以上に及ぶ。ITベンダー側で10年、ユーザー企業側で13年のITプロジェクト経験を経て、情シスコンサルティング株式会社を設立。

多くの現場経験をもとに、プロジェクトの全工程を網羅した業界初のユーザー企業側ノウハウ集『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』を上梓、好評を得る。同書は多くの情シスで研修教材にもなっている。

また、プロジェクトの膨大な課題を悶絶しながらさばいていくうちに、失敗する原因は「上流工程」にあるとの結論にたどり着く。そのため、ベンダー選定までの上流工程のノウハウを編み出し『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』を上梓し、情シスにインストールするようになる。

「情シスが会社を強くする」という信念のもと、情シスの現場を日々奔走している。

著書の詳細は、こちらをご覧ください。