2024
10/16
議事録が遅いベンダーを嘆く
「ベンダーは議事録の作成が遅く、1週間以上経たないと出てこない」
「ベンダーに不信感しかありません」
ある現場で、基幹システム入れ替えのプロジェクトがうまくいっていないと相談を受けました。
相談者は、情シスの方で、PMOを担当しています。冒頭から、ベンダーへの愚痴が止まりません(苦笑)
うまくいっていないプロジェクトの典型的なパターンです。
そこで、何度も話に出てくる「議事録」について、何の議事録かを聞いてみました。
すると「全部」だそうです。
「ベンダーが出席した会議は、全てベンダー側で議事録を作成する」と提案書に明記されていました。
だから、情シスPMOとして、成果物である議事録をチェックしています。しかし「出来が悪すぎる」とのこと。
この「議事録」に対する考え方は、人それぞれあると思います。
「納品物だからきちんと書かせてチェックすべき」だとか「新人や雑用係にやらせるべき」との意見もあります。
私は「議事録をどう扱うかでプロジェクトの品質は大きく変わる」と考えます。
情シスは、議事録とどう向き合っていくべきでしょうか?
情シスからみた議事録の目的
まず、情シスPMOからみた、議事録の目的を3つに分けて整理してみます。
① 会議内容を記録として残す
これは議事録の存在意義ですが、私はそれほど重要ではないと考えています。
② 会議内容の理解度を図る
これは重要です。会議でユーザーが説明した「業務内容」をベンダーがきちんと理解しているか、ユーザーの「要求事項」が正しく伝わっているか。これを確認することができます。特に「要件定義」や「基本設計」の工程では、ベンダーの「業務理解度」を図るために、ベンダーが作成した議事録を確認することは、非常に有効です。
③ 会議をコントロールする
こちらは、さらに重要です。「進捗会議」や「ステアリングコミッティ」等では、ベンダーの「ToDo」を明確にし、期限を設けます。「決定事項」を周知し、プロジェクトを確実に前に進めていきます。この議事録をどのように表現するかで、会議参加者を誘導し、会議そのものをコントロールしていくことに繋がります。逆を言えば、都合の悪いことは書かなかったり、事実を捻じ曲げることもできてしまいます。この手の議事録は、ベンダーに作らせるのではなく、情シス側で作るのが得策といえます。
つまり、議事録は会議の性質によって、誰が書くかを「使い分け」することが重要なのです。
会議をコントロールする最強のツール
ちなみに、私は好んで議事録を作ります。1日で3つぐらい作るときも、平気であります。
ベンダーにお願いすれば、タダで作ってもらえます。情シスの若手にお願いすることもできます。
でも、私はあえて自分で書きます。なぜ、そこまでやるか?
それは上記の「③コントロールする」が、圧倒的なメリットだからです。
会議のアジェンダを作って、会議でファシリテーションして、その場で「画面共有」して、参加者が見ている場で議事録を作っていきます。
記録が間違っていたら、その場で指摘してもらえます。逆に指摘がなければ、参加者全員が同意したことになります。
私の業務理解不足があれば、議事録を書くときに堂々と質問をすることもできます。その質問は、ベンダーにとっても理解の助けになります。
ベンダーに曖昧な回答があれば、議事録に書けないので、細かく質問をします。それは、ユーザーを代弁することになります。
さらに、私は議事録の提出スピードにもこだわります。参加者の記憶が鮮明なうちに、すぐに出します。私は次の会議が連続して入っていない限り、ほとんど30分以内に展開します。会議中に大体の内容を打ち込んでいれば、さほど負荷は高くありません。変に後回しにする方が、忘れてしまうため、よほど大変です。
参加者全員に議事録を速やかに配信し、決定事項とToDoを周知します。そうすることで、次回の会議での「主導権」も握ることができます。
議事録は、作るのは面倒だし、なんとなく「下っ端」のイメージもあるため、誰もやりたがりません。だからこそ、チャンスなのです。情シスが立候補しても、誰も反対しません。気づけば、参加者の懐に入り、ついでに進行を任され、偉い人も外部の人も全てコントロールしている、という環境を作りやすいといえます。
私は、これほど会議の場を仕切る「ツール」を他に知りません。
議事録を適切に扱えないと、PMOとして死活問題だとすら考えています。
議事録を全て作らせる弊害
逆に、ベンダーにすべての議事録を作らせると、大きな弊害があります。
・ベンダー負担が増え、提出がますます遅れる
・ベンダーの間違い探しが目的になる
・ベンダーに攻撃的になり、溝が深まる
・疑心暗鬼となり、ユーザーの確認負担も増える
ベンダーへの丸投げに慣れてしまうと、丸投げ癖がつき、ベンダーへの依存度が深まり、プロジェクトの主導権を自ら手放すことになっていきます。
「お金を払っているのだから、全部をベンダーに作らせよう、労力を搾取しよう」
というのは、考えが浅いと思います。ユーザーとベンダーでwin-winとなるよう、全体を設計し、役割を分担すべきです。
AI議事録作成ツールでDX?
ただ最近、「DX」という名で、この議事録の位置づけが変わってきています。
そう、「AI議事録作成ツール」です。
単なる「文字起こし」だけではなく、AIが会議内容を「要約」してくれます。音声から「話し手」を識別し、業務用語も事前に登録しておけば、きちんと記録してくれます。
私が支援する情シスも、このツールに乗り気だったりします(汗)
負担を減らしたり、ムダなことを自動化することは大切だとは思います。
ただ、その「プロセス」が大事なこともあります。
貴重な工数を節約できますが、会議の理解力や支配力は失われます。
そこには「トレードオフ」が存在します。
楽をしたいだけなら、そもそも議事録をなくせばいいし、記録だけならボイスレコーダーで記録しておけばいい。これを「DX」の文脈で売り込まれても・・・と思う今日このごろです(苦笑)
今のところは、まだ従来のメリットを上回る動機がない、というのが正直なところです。まだ、私が効果的な使い方を見いだせていないだけかもしれませんが…。
貴社の情シスは「議事録」をどう扱っていますか?
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情シスコンサルタント
田村 昇平
情シス(IT部門、情報システム部門)を支援するコンサルタント。
支援した情シスは20社以上、プロジェクト数は60以上に及ぶ。ITベンダー側で10年、ユーザー企業側で13年のITプロジェクト経験を経て、情シスコンサルティング株式会社を設立。
多くの現場経験をもとに、プロジェクトの全工程を網羅した業界初のユーザー企業側ノウハウ集『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』を上梓、好評を得る。同書は多くの情シスで研修教材にもなっている。
また、プロジェクトの膨大な課題を悶絶しながらさばいていくうちに、失敗する原因は「上流工程」にあるとの結論にたどり着く。そのため、ベンダー選定までの上流工程のノウハウを編み出し『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』を上梓し、情シスにインストールするようになる。
「情シスが会社を強くする」という信念のもと、情シスの現場を日々奔走している。
著書の詳細は、こちらをご覧ください。