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情シスの内製・外注のハイブリッド戦略

2024

10/30

情シスの内製・外注のハイブリッド戦略

内製と外注はゼロイチではない

「内製には大きなメリットと大きなデメリットがある」

これを、前回のコラムで整理しました。
(↓前回コラム↓)
内製はメリットが大きいけどデメリットも大きい

それでは、内製はどうすればいいのでしょうか?

情シスの基本戦略は、内製と外注の「ハイブリッド」です。

社内の全システムを、内製か外注かの「ゼロイチ」で考えるのではなく、各領域ごとに見極めるということです。それぞれのメリットを享受し「おいしいとこ取り」していきます。

外注に向いている領域

まず、システムの外注について、どの領域が向いているのでしょうか?

それは、パッケージやSaaSが存在する領域です。ここは積極的に活用すべきです。

特に基幹システムは、パッケージを採用することで業務フローが標準化されます。この標準化の恩恵は、非常に大きいといえます。

会計、労務、人事、給与、営業などは、多くのパッケージが存在し、さらに「非競争領域」のため、内製化する意味はまったくありません。積極的にパッケージを採用することで、コスト削減し、運用保守を省力化し、標準化すべきです。

唯一、悩ましいのは「販売管理システム」です。ここはサブシステムに分解すると、「請求・入出金管理」があり、ここはパッケージで賄うことができます。

問題は、請求するまでのプロセスが、ビジネスと密着していることです。ビジネスの独自性が強くなればなるほど、パッケージと合わなくなります。

商品マスタの持ち方、価格の考え方、取引先の階層や請求方法、経費の計算方法、各プロセスでの入力タイミングや入力項目、ステータス管理、そして各帳票などは、パッケージの標準機能では対応できない部分が多く存在します。

また、事業に特化した「業務フロー」が確立されている場合、パッケージと大きなギャップがあります。

教科書的には、その複雑怪奇な業務フローをパッケージに合わせることで、BPR(業務改革)を目指すべきでしょう。

しかし、その業務フローが他社との差別化となり、競争力につながるものであれば、話が変わってきます。パッケージに合わせるべきではありません。

ギャップが小さければ、パッケージをカスタマイズすればいいでしょう。一方で、大部分に開発が必要で、かつ頻繁に修正が発生する場合は、パッケージは使えません。その場合は、スクラッチ開発が向いており、内製の選択肢が出てきます。

内製に向いている領域

では次に、内製はどのような領域が向いているのでしょうか?

それは「競争領域」で独自性を出すべきシステムです。

たとえば、ECサイトやスマホアプリなど、「顧客接点」があるシステムは、その機能、品質、利便性、信頼性が直接的に「差別化」となります。スピードと柔軟性を求められるため、内製の強みが出てきます。

また、試行錯誤しながら社内で「ノウハウ」を溜めていきたい領域も、内製が向いています。

たとえば、データドリブン経営・KPI管理のためのBIや、データ分析・予測のためのAIなどは、要件が流動的に変わります。そのため、アジャイル開発が向いており、内製の方が都合がいいといえます。

PoC(概念実証)で少しずつ方向性を明確にしていく場合は、スコープや成果を事前に定義しにくく、外注の年間予算を計画しにくい側面もあります。

内製と外注のコラボ

ただし、内製というのは「外注ゼロ」というわけではありません。

内製の立ち上げ時には、社内にノウハウがないため、外部の専門家による支援は欠かせません。そのため、最初のシステム構築は、外注メインで、徐々にスキルトランスファー(技術継承)していき、最終的に内製率を高めていくのが現実的です。

また、外部の専門家と内製部隊でコラボチームを作るのも、良い方法です。

最先端のデジタル技術や専門的なITノウハウが必要な場合は、外部の専門家が強みを発揮します。そのメンバーをチームに加え、一体となって進めるのがよいでしょう。

さらに会社によって異なる

最後に、内製は、会社ごとに判断軸が異なることも認識しておきましょう。

① DXステージによる

基本的に、内製は「攻めのIT」で活きてきます。会社がまだ「守りのIT」を実装できていない中では、時期尚早といえます。まずは、外部の力を借りて、高速道路を突っ走り、守りのITを固めるのが先決です。DXは3ステップあります。 
 Step1.デジタイゼーション
 Step2.デジタライゼーション
 Step3.デジタルトランスフォーメーション
このステップの後半に差し掛かったときに内製を本格的に考えていきましょう。

② 企業規模による

内製人材を多く抱えるには、内製タスクを安定的に供給する必要があります。そのため、大企業であれば、社内システムが多く、システム化要望も多いため、ある程度の内製人材を抱えてもタスクは十分に割り当てできます。一方で、中小企業がマネをして、大量に内製人材を抱えると、あとで過剰となります。内製を大々的に宣言できる企業は、大量のシステム要件を供給でき、大量の雇用を維持する体力のある大企業に限られるということです。

③ 業種による

そもそもITサービスを事業としている企業は、前提が大きく異なります。内製人材を情シスとして必要というよりは、事業部門として必要としています。また、社内で構築したシステムを外販するような企業も同類です。そのような企業は、内製人材の確保自体が、事業戦略の一部です。そうでない企業は、他社事例として参考にすべきではありません。

自社のアジェンダとして考える

今回は内製について考えてみました。一口に「内製」といっても、状況によって、また領域によって、業界によって、様々に状況は変わってきます。

自社にとって、内製とどう向き合っていくのがベストか。どのタイミングで取り組むのが最善なのか。それは他社と比較するのではなく、自社のアジェンダとして考えるべき経営課題ともいえます。

貴社のIT部門・情報システム部門は、内製についてどのような戦略を描いていますでしょうか?

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御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか

情シスコンサルタント
田村 昇平

情シス(IT部門、情報システム部門)を支援するコンサルタント。

支援した情シスは20社以上、プロジェクト数は60以上に及ぶ。ITベンダー側で10年、ユーザー企業側で13年のITプロジェクト経験を経て、情シスコンサルティング株式会社を設立。

多くの現場経験をもとに、プロジェクトの全工程を網羅した業界初のユーザー企業側ノウハウ集『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』を上梓、好評を得る。同書は多くの情シスで研修教材にもなっている。

また、プロジェクトの膨大な課題を悶絶しながらさばいていくうちに、失敗する原因は「上流工程」にあるとの結論にたどり着く。そのため、ベンダー選定までの上流工程のノウハウを編み出し『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』を上梓し、情シスにインストールするようになる。

「情シスが会社を強くする」という信念のもと、情シスの現場を日々奔走している。

著書の詳細は、こちらをご覧ください。