2024
11/06
圧巻の工場見学
「この工場では、XXXを作っています〜」
騒音が鳴り響く工場の中で、プロジェクトリーダーの方が、トランシーバーで説明し、イヤホンをつけている我々が聞いています。
ある現場の工場見学に参加してきました。ベンダー10名が参加し、そこに外部コンサルの私も参加しました。
販売管理システム再構築プロジェクトにて、今回選定したベンダーがスクラッチ開発を行います。そのベンダーに業務説明の一貫として、工場見学を企画し、案内しました。
見学は、午前・午後で1日がかりです。移動バスも出してもらい、複数の工場を見て回ります。お昼はお弁当も配られ、みんなで食べました。
まるで、子どもの社会見学のようです。
ベンダーの皆さんも楽しそうでした。私もそうです。見ていてワクワクし、感動の連続でした。
大きな機械で自動化されている光景は圧巻ですし、あえて人間の手作業を残している部分は熟練のワザを垣間見れて、感動しました。
さて、ここだけ切り取ると「ベンダーと工場見学ってどんな関係があるの?」「意味あるの?」と思われるかもしれません。
はたして、このようなベンダーの工場見学は意味があるのでしょうか?
工場見学のデメリット
ベンダーと工場の関連性の薄さを考えると、デメリットが浮かんできます。
ベンダーはシステムを作るのが役割です。
工場を知ったところで、販売管理システムとしては直接関係する領域ではありません。工場はシステムの外の世界なので、外で何をやっていようが、システムの設計・開発とは、ほぼ無関係です。
業務フローを作るかもしれませんが、工場の詳細に踏み込むものではなく、システムとの接点はごくわずかです。
工場を案内するのに、ユーザー側の労力もかかります。
工場に話を通し、協力してもらう必要もあります。見学していると、作業員は挨拶してくれますし、気を使わせてしまうし、邪魔をしていると思います。正直、迷惑をかけている側面はあるでしょう。
工場見学のメリット
一方で、メリットを考えてみます。
直接的には、工場のイメージが明確になるので、工場で出力する帳票やオペレーション画面を、より実態に沿ってわかりやすく、見やすくするような設計・配慮ができるようになります。
見学に協力してくれた工場の方々に、感謝の気持ちが湧いてきます。工場の方々がより便利になるように、インターフェースをもうひと手間かけるようになります。
そしてもう1点、重要な観点があります。
それは、ベンダーの「エンゲージメント」が上がるということです。
ベンダーは、このプロジェクトで大切にされていると感じます。ここまでユーザー企業が、自分たちのために労力をかけてくれたのです。プロジェクトに対して、愛着や忠誠心は間違いなく大きくなっています。
プロジェクトは、必ず苦しい局面が訪れます。
そこで、エンゲージメントが高ければ、ベンダーが踏ん張る「原動力」になるのです。
言った言わないで揉めて関係性が一時的に悪くなっても、根底に信頼関係があれば共にゴールに向かっていけます。
ユーザーやプロジェクトに愛着が大きければ、最後にもうひと手間をかけてでも、システムをより良い品質にするために頑張ってくれることでしょう。
このわずかの差がプロジェクトの成否を分けるのではないでしょうか。
青臭いと思われるかもしれませんが、プロジェクトが苦しいとき、最後はテクニックやスキルではなく、この信頼関係こそがカギになると考えます。
変に関係性がこじれて、仕様変更等で多額の追加費用を払うよりも、はるかに安上がりな「先行投資」だともいえます。
エンゲージメントを高める
「お金を払ってもいいと思うほど感動しました!」
一連の見学が終わり、最後に工場の一角の会議室スペースで「感想会」を開きました。
ベンダーの皆さんは、それぞれ感動を口にしていました。特に中核のリーダーやベテランの人ほど、目を輝かせて、はしゃいでいました(笑)。
私も負けじと、ありったけの感動を発表しました。
その場は、一体感に包まれます。
これからプロジェクトは佳境に入っていきますが「このメンバーならやれそう」という気持ちになりました。全員がそうだったと思います。
このような雰囲気は、なかなか会議室だけで作れるものではありません。
ベンダーのエンゲージメントを高めることは、トータル費用を抑え、品質を高め、結果的に信頼関係が強くなっていく「好循環」を作り出すための必須要件といえます。
貴社では、ベンダーの「エンゲージメント」を高める取り組みをしていますでしょうか?
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情シスコンサルタント
田村 昇平
情シス(IT部門、情報システム部門)を支援するコンサルタント。
支援した情シスは20社以上、プロジェクト数は60以上に及ぶ。ITベンダー側で10年、ユーザー企業側で13年のITプロジェクト経験を経て、情シスコンサルティング株式会社を設立。
多くの現場経験をもとに、プロジェクトの全工程を網羅した業界初のユーザー企業側ノウハウ集『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』を上梓、好評を得る。同書は多くの情シスで研修教材にもなっている。
また、プロジェクトの膨大な課題を悶絶しながらさばいていくうちに、失敗する原因は「上流工程」にあるとの結論にたどり着く。そのため、ベンダー選定までの上流工程のノウハウを編み出し『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』を上梓し、情シスにインストールするようになる。
「情シスが会社を強くする」という信念のもと、情シスの現場を日々奔走している。
著書の詳細は、こちらをご覧ください。