2025
2/28

ガントチャートが真っ赤っ赤
「ユーザーが忙しくて、まったく動いてくれません」
ある現場で、プロジェクトの進捗状況を「ガントチャート」で確認しました。
最近は、クラウドツールが発達しているので、このようにWBSをクラウドのガントチャートで可視化する機会が増えています。
そこで、拝見したところ、未着手を表す「赤」のバーだらけでした。
ほとんどが未着手で、見た目が真っ赤っ赤です。
中には、2ヶ月前、3ヶ月前から未着手のタスクも大量にあります。
聞くと、現場が忙しいようで、ユーザーがなかなか動いてくれないとのこと。何度催促しても、進展がないそうです。
実は、このような状況は「プロジェクトあるある」です。
最初は、誰もが張り切ってスケジュールを細かく組むのですが、徐々に遅れが目立ち、2〜3ヶ月後には見たくない状況になっていきます(苦笑)
情シスPMOとして、この状況でどう動けばよいのでしょうか?
遅れを許容する文化
まず、大量の遅れを放置している状況が、非常に良くありません。
なぜでしょうか?
それは、プロジェクト全体で遅れを「許容」することになるからです。
「赤信号、みんなで渡れば怖くない」
という文化を作っているといえます。
タスクが遅れているのは、もちろん担当するユーザーが悪いのでしょう。しかし、それを放置する情シスPMOも悪いといえます。
では、どのように対策を打っていけばよいのでしょうか。
ガントチャートの基本動作
まずは、ガントチャートを正しく整えていきましょう。
① 未着手の放置を認めない
まず、着手しているなら「未着手」ではなく「作業中」にステータスを更新しましょう。ここをやらない人が多すぎます。未着手と作業中では、まるで印象が変わってきます。未着手に対して、過敏に反応し、まずは着手したかどうかを担当者に確認しましょう。ステータスを即時反映するのは、進捗管理の基本です。
② できない多重にしない
例えば、同じ担当者に対して、タスクを10並行、20並行で組んでいる場合があります。でも実際には、その担当者は、タスクを順番に処理していくはずです。担当者に確認して、並列ではなく直列に並べて、「階段状」にしていきましょう。そうでないと、まともな進捗管理はできません。
③ 長い作業中は分解する
タスクの期間が長すぎると「作業中」のまま、動きがなくなります。これだと進捗があるのかないのかを表現できません。ここを進捗が表現できる単位まで、適切に分解していきます。こちらも「階段状」になるはずです。
重要なのは、プロジェクト全体として「進捗感」を出すことです。進んだタスクはきちんと更新され、真面目に取り組んでいる人がわかるようにすべきです。そして、遅れているタスクは更新されずに、遅れが目立つようにします。
④ 安易に予定を後ろにずらさない
遅れが目立った場合に、安易に予定を後ろにずらそうとする人がいます。それだと、いつも予定通りに見えてしまい、進捗管理になりません。まずはマイルストーンを定義し、期限を明確にします。その上で、例えば「これ以上伸ばせば追加費用が発生する」とか「ステコミで追及される」など、影響を明確にし、安易に予定をずらせないようにします。
上記の基本動作を行った上で、遅れに向き合っていきます。
PMOは進捗管理者ではない
PMOとして、遅れにどう向き合うべきでしょうか?
動いてくれないユーザーに腹が立つ気持ちもわかります。
「このプロジェクトを軽くみてないか?」
「忙しいのは全員同じ。言い訳でしょ?」
と心の中で思うこともあるでしょう。
でも、そのマインドでは、ユーザーと敵対してしまいます。「なぜできないのか?」「いつだったらできるのか?」とお尻を叩かれたユーザーは、心を閉ざし、保身に走るだけです。
ここは、PMOの定義を書き換えることをオススメします。
PMOは「進捗管理者」ではなく、「進捗支援者」である。
支援者として捉えると、思考がまるで変わってきます。「ユーザーが動かない」ではなく、「ユーザーが動ける状態まで支援できていない」となります。
ユーザーに寄り添い、ユーザーと同じ景色を見て、同じ立場で考えてみる。どうすれば、ユーザーの助けになるのか。どうすれば、動きやすくなるのか。何が手伝えるのか。
状況を動かしたいのであれば「タスクを分解して他メンバーと分業する」「関係者と打ち合わせをセッティングする」「プロジェクトオーナーに相談する」「雑用的なタスクは情シスで巻き取る」などが考えられます。
ユーザーの信頼を得たいのであれば「一緒に怒られに行く」「代わりに謝ってくる」「遅れている理由を代弁してユーザーの名誉を守る」「そのユーザーがいない所で悪口大会になった時に逆にフォローに回る」などがオススメです。
「そこまでやるの?」と思うかもしれませんが、やってみるとわかります。
清々しいです(笑)
そもそも自分のミスではないので、誰かに責められたり怒られたりしても、ノーダメージです。人間は、好きな人のためには頑張れます。ユーザーのことを知れば知るほど、助けたいという気持ちになり、好きになっていきます。すると、気持ちよく助けられるようになります。
やればやるほど、協力者は増え、動かなかったユーザーが変化していくのを実感できます。
プロジェクトとして、動かなかった大きな岩が少しずつ動いていくことになるのです。
プロジェクトにおける本当の影響力
PMOには、強力は権限はありません。取締役や部門長のようにトップダウンの命令もできません。
それが何ですか??
プロジェクトにおける本当の「影響力」とは、上から与えられた権限や恐怖ではなく、現場からの尊敬と信頼から得られるのではないでしょうか。
尊敬や信頼は、PMOメンバーの持つ、誠実さ、能力、公平性、真摯さといった「人格」に対して生まれます。
PMOがユーザーに真剣に寄り添い、誰よりも当事者感を丸出しで動いていきます。その結果、周りから信頼され、誰からも相談を受け付け、情報も集まり、プロジェクトにおいて最も影響を与えるポジションになるのです。
カオスだからこそ、PMOの腕の見せ所です!
ターニングポイント
「スケジュールを見直して、赤を減らしました!」
前回の打ち合わせでは、かなり厳しいコメントをさせていただきました。そのため、かなり気がかりだったのですが、1週間後にPMOメンバーから説明を受けました。
すると、遅れを示す「赤」が激的に減りました。まだ少し残っているものの、これから着手して、遅れを取り戻すそうです。
また、それぞれのユーザーと時間をとって、じっくり話し合ったそうです。その後、意気投合して、飲みにもいったそうです(笑)
雑用はすべてPMOが巻き取りつつ、忙しい現場業務に配慮しながら、一緒にやっていきましょう!という状況になったそうです。
それで良いと思います。これから、本当の意味で遅れと向き合い、大変な状況にはなっていくでしょう。
でも、信頼関係があれば、何とかなります。
今後は、ガントチャートの進捗を誰もが意識して、守っていく文化も出来ていくと思います。
この段階で、PMOがパワーアップできて良かったです。
頑張って進めていきましょう!
貴社のIT部門・情報システム部門は、ガントチャートの「真っ赤っ赤」を放置せずに対処できていますでしょうか?
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情シスコンサルタント
田村 昇平
情シス(IT部門、情報システム部門)を支援するコンサルタント。
支援した情シスは20社以上、プロジェクト数は60以上に及ぶ。ITベンダー側で10年、ユーザー企業側で13年のITプロジェクト経験を経て、情シスコンサルティング株式会社を設立。
多くの現場経験をもとに、プロジェクトの全工程を網羅した業界初のユーザー企業側ノウハウ集『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』を上梓、好評を得る。同書は多くの情シスで研修教材にもなっている。
また、プロジェクトの膨大な課題を悶絶しながらさばいていくうちに、失敗する原因は「上流工程」にあるとの結論にたどり着く。そのため、ベンダー選定までの上流工程のノウハウを編み出し『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』を上梓し、情シスにインストールするようになる。
「情シスが会社を強くする」という信念のもと、情シスの現場を日々奔走している。
著書の詳細は、こちらをご覧ください。