2019
2/12
IT部門の高齢化問題
「優秀な若手ほど辞めていくんです」
セミナーに参加していただいた大企業のCIOを訪問した際に、その方が苦笑いしながらおっしゃっていました。
・運用、保守で手一杯になっている
・人材の高齢化が進み、数年後の「定年問題」を控えている
・全体のモチベーションが低い
その結果、優秀な若手が辞めていくそうです。
この話が1社だけなら個社問題となりますが、2社、3社と立て続けに同じ相談を受けたので、ちょっと恐ろしくなりました。
キーワードは「高齢化」と「若手流出」。
このまま進めば、IT部門が崩壊することは火を見るよりも明らかです。
IT部門はどのように対応していけばよいのでしょうか?
若手の琴線に触れる役割
大企業ほど、運用・保守部隊が大きくなります。
運用・保守にはノウハウが必要です。長年やればやるほど、ノウハウが蓄積されて、対応が速くなります。50代のベテランにもなると、その対応は「神がかり」というほど、即時対応が可能になります。
そのようなベテランが多くなると、どの部門からも信頼され、全社的に問い合わせが殺到するようになります。大企業ほど社員の数が多くなるため、問い合わせも非常に多くなっていきます。
IT部門は増員して対処しますが、追い付かなくなります。IT部門の「企画」「開発」「デジタル改革」など他の役割が後回しになり、目の前の「緊急の問い合わせ」に忙殺されていきます。
このような状況に、優秀な若手はどう思うのでしょうか?
本当に優秀な若手は、大きな野望を持っています。
・もっと自己成長したい
・もっと大きな仕事がしたい
・もっと社会に貢献したい
神がかった問い合わせ対応をする先輩を見て「すごいなぁ」とは思うものの、違和感が芽生えていきます。
若手はキャリアパスに敏感です。将来性の志向が強いため、「自分はもっとやれる」「自分の居場所はここではない」という気持ちが強くなり、最終的には辞めていきます。
本当に優秀な人材は、運用・保守に留めておくことはできません。ではどうすれば良いのでしょうか?
そのような人材こそ、「プロジェクトマネジメント」の役割を与えるのです。
全社的なプロジェクト、社運のかかった重要なプロジェクト等は効果的です。「経営」「業務」「IT」を高度な次元で融合し、会社の発展に直接貢献できます。
経営層や業務部門に「感謝」され、「期待」されることが、優秀な人材への「最大の報酬」です。大きなやりがいをもって、モチベーションは自発的に高まっていきます。
IT部門としての組織戦略
IT部門の組織設計を行う場合、運用・保守の比重を高くしすぎないことです。
もちろん必要な機能ではありますが、場合によってはアウトソーシングも活用し、そこが「主力部隊」にならないようバランスをとる必要があります。
比重を高くしてしまうと、全社的に「下請け部門」や「雑用部門」としか見られなくなります。全社的に重要な役割を任されたり、相談を受けたりすることができません。他部門に対してコンプレックスを抱え、「受け身の姿勢」がさらに強くなってしまいます。
終日、問い合わせやクレーム対応に追われ、モチベーションが低くなり、キャリアパスに不安を覚えた若手が流出していきます。ベテランだけが残り、後継者が育たず、定年問題が深刻になります。
まさに負のスパイラルです。
これらを回避するために、まずはIT部門が「プロジェクトを得意」とすること。PMやPMOの役割を常に確保することです。
優秀な人材をとどめておきたいなら、それに見合うポジションを「先」に確保すべきです。
そのために、IT部門の責任者は、必ず「トップマネジメント」でその役割をねじ込んでおくべきです。経営層や業務部門のトップと交渉して、IT部門が常にプロジェクト体制に組み込まれるように話をつけておくのです。
貴社のIT部門は、積極的に「プロジェクトマネジメント」の仕事を取りに行っていますでしょうか?
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情シスコンサルタント
田村 昇平
情シス(IT部門、情報システム部門)を支援するコンサルタント。
支援した情シスは20社以上、プロジェクト数は60以上に及ぶ。ITベンダー側で10年、ユーザー企業側で13年のITプロジェクト経験を経て、情シスコンサルティング株式会社を設立。
多くの現場経験をもとに、プロジェクトの全工程を網羅した業界初のユーザー企業側ノウハウ集『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』を上梓、好評を得る。同書は多くの情シスで研修教材にもなっている。
また、プロジェクトの膨大な課題を悶絶しながらさばいていくうちに、失敗する原因は「上流工程」にあるとの結論にたどり着く。そのため、ベンダー選定までの上流工程のノウハウを編み出し『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』を上梓し、情シスにインストールするようになる。
「情シスが会社を強くする」という信念のもと、情シスの現場を日々奔走している。
著書の詳細は、こちらをご覧ください。