2020
8/21
ベンダー選定は最後に不安がやってくる
「その無名のベンダーに頼んで本当に大丈夫なのか?」
そのプロジェクトは、ベンダー選定の終盤に差し掛かっていました。一通りの評価も終わり、本命のベンダーがいます。プレゼンも抜群に良かった。
ただ、そのベンダーは歴史が浅く、ネームバリューが無かったのです。
基幹システムの再構築プロジェクトであり、ベンダー選定ミスは許されません。
大きな決断の前では、誰もが不安になります。
このように、ベンダー選定で最後の決断ができない。その場合に、背中を押してくれる最後の一手とは何でしょうか?
感謝の気持ちが表れる
意中のベンダーに現在の状況を説明します。数社に絞られているが、最後の決め手に欠いている、と。そして、こうお願いします。
「御社のシステムの導入先を紹介してください」
ベンダーはきょとんとします。でも、その後、こう言います。
「わかりました。ちょっと検討します」
数日後、紹介先のユーザー企業のメールアドレスをもらいます。
ベンダーは紹介するだけで、面談の場にはいません。何の接点もなかったユーザー企業同士が初対面で話をするという「非日常的な空間」となります。
盛り上がるのか?
という不安は当然あるでしょう。しかし、大抵は盛り上がります。
田村の経験則だと、こちらが恐縮するぐらい、親切丁寧に説明してくれます。本当に何の得もないのに、応接室に通され、そのベンダーのこと、システムのことを洗いざらい、詳細に話してくれます。
「質問があれば何でも聞いてください」
と言われると、恐縮してしまいます。相手の善意が眩しすぎて「聖人」に見えます。こちらが「取材料」を払いたくなります。
最後は「情シスあるある話」「業界あるある話」で大盛り上がりとなり、終了します。
そもそも、紹介先のユーザー企業は何のメリットもないのに、なぜ応じてくれるのでしょうか?
それは、ユーザーがそのベンダーに感謝しているからです。
日頃から助けてもらっている、お世話になった、そのベンダーが頼んできている。感謝の気持ちが強いほど、全力で応えようとするからです。
「そのベンダーの息がかかっているユーザーは、ヨイショすることしか言わないのでは?」
それは確かにその通りで、バイアスはかかります。100のことを200で大袈裟に話すかもしれません。話半分で聞いた方がいいでしょう。
話の内容ではなく、そのユーザーが現在のシステムに満足しているかを感じ取れればいいのです。その状況を自分たちの未来に重ね合わせて、想像することです。
重要なのは、その「紹介の場」を設定できたことです。それだけで合格なのです。
ベンダーが導入先から感謝されている揺るぎない証拠だからです。
ベンダーの実績の裏付けをとりたい時、選定の背中を押してもらいたい時、紹介は絶大な効果を発揮します。
いざ聖地へ
冒頭のプロジェクトでも、本命のベンダーから導入先の部長を紹介してもらいました。当時、プロジェクトマネージャーを務めていたそうです。
驚くべきことに、その部長は当時のプロジェクトの経緯からベンダーの活躍ぶりなどをパワーポイントでまとめてくれていて、分かりやすく丁寧に説明してくれました。
また、実際にベンダーが構築したシステムも見せてくれて、いろんな画面を解説してくださいました。
質問も20個ほど準備していましたが、嫌な顔ひとつせず、丁寧にお答えいただきました。
その部長には、全くメリットがないはずなのに・・・です。
気付けば予定の1時間を軽くオーバーしていて、2時間を超えていました。
「このまま飲みにいきたいぐらいです」
と言われ、最後まで恐縮しきりでした。まだ昼でしたが。
その結果をまとめ、翌日のステアリングコミッティでベンダー選定が決着したことは言うまでもありません。
貴社の情報システム部門/IT部門でも、ベンダー選定で最後に迷ったら「聖人」に会いに行ってみませんか?
「世の中、捨てたもんじゃない」と思うはずです(笑)
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情シスコンサルタント
田村 昇平
情シス(IT部門、情報システム部門)を支援するコンサルタント。
支援した情シスは20社以上、プロジェクト数は60以上に及ぶ。ITベンダー側で10年、ユーザー企業側で13年のITプロジェクト経験を経て、情シスコンサルティング株式会社を設立。
多くの現場経験をもとに、プロジェクトの全工程を網羅した業界初のユーザー企業側ノウハウ集『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』を上梓、好評を得る。同書は多くの情シスで研修教材にもなっている。
また、プロジェクトの膨大な課題を悶絶しながらさばいていくうちに、失敗する原因は「上流工程」にあるとの結論にたどり着く。そのため、ベンダー選定までの上流工程のノウハウを編み出し『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』を上梓し、情シスにインストールするようになる。
「情シスが会社を強くする」という信念のもと、情シスの現場を日々奔走している。
著書の詳細は、こちらをご覧ください。