2020
12/11
業務フローは誰が作るの?
「業務フローは自社で作るんですよね?」
A社の情シスに聞かれたので、田村は「はい」と答えました。
「業務フローはベンダーに作らせるんですよね?」
別のB社の情シスに聞かれたので、田村は「はい」と答えました。
これは田村が忙しさにかまけて、テキトーに答えているわけではありません。
聞かれたタイミングが異なるからです。
現場からよく聞かれる質問ですが、「業務フロー」は自社とベンダーのどちらが作るべきなのでしょうか?
業務フローの教育効果
業務フローは作った本人の「業務理解がものすごく深まる」という側面があります。
作る過程で、業務パターンが作成者の脳内で整理されます。一つの流れとして最初から最後までを、理路整然と語れるようになります。実際に手を動かすことで、記憶としても定着し、強力な学習効果があります。
作成後は「業務のことは俺に聞け」オーラを身にまとい、その後の「キーパーソン」となります。
問題は、この業務フローを誰に作らせるか?
ここが非常に重要です。
自社で作るのか、ベンダーに作らせるのか。
これは言い換えると
どこに「キーパーソン」を作るのか?
ということです。
プロジェクトの文脈によって異なりますが、外注ケースでは「王道パターン」があると考えます。
業務フローの「As-Is」は、「自社」で作ります。
自社でしか、現状業務を正しく可視化することはできません。複数のシステム・ツール・書類を横断する流れ、現場でしか知らないイレギュラー、取引先との対応バリエーションなど、自社だからこそ書くことができます。
これらを業務フローの形式で書くことで、現状業務を上から下まで網羅的に可視化できます。この可視化をきちんと行うことで、課題が浮かび上がってきます。
その課題を解決するために、システム構想、要求整理(RFP)へとスムーズに繋がっていきます。
一方、業務フローの「To-Be」は、「ベンダー側」で作ります。
ベンダーの一番の弱点は、業務の理解不足。そこを補うため、ベンダーは業務フロー「As-Is」をインプットとして、業務フロー「To-Be」を自らアウトプットする。この過程が「業務の引き継ぎ」となるのです。
「To-Be」作成は、現行業務を把握しつつ、課題解決を検討し、新システムとのインタフェースを考えることになるので、とても難しい作業になります。だからこそ、悩みながら、苦労して手を動かすことで、業務内容がベンダー内で腹落ちします。
要件定義でベンダー側にも「キーパーソン」ができれば、その後の設計・開発フェーズにしっかりとした軸が通ることになります。
自社とベンダーの両輪で「キーパーソン」がいることが、その後のプロジェクトリスクを大幅に低減していくのです。
あえて情シス
「そうですよね。では『As-Is』はユーザー部門に作ってもらいます」
違います。
田村は「情シス」に作ってほしいのです。
そこを逃げるから、情シスは頼りにされないんです。「業務は丸投げ」のスタンスを取る限り、永久にユーザー部門から信頼は得られません。
もちろん、一人では作れないので、ユーザー部門にヒアリングは行います。でも、手を動かし、苦労しながら、多くの指摘を浴びながらでも、作るのは「情シス」であるべきです。
その過程でユーザーとの距離が縮まるし、業務も覚えるので「一石二鳥」です。その後の進捗管理や課題管理も介入しやすくなり、会議でもファシリテーションしやすくなると考えると「一石五鳥」です(笑)。
その姿はユーザー部門も見ています。必死に業務に寄ってくる姿が、信頼を呼び起こします。
「私も手伝うので情シスで作りましょう」
田村は必ずそう答えます。
最初は「しぶしぶ」ですが、たいていは最初の1枚を乗り越えると、後は要領を得てテンポよく進みます。
最初に、ほんのちょっとの覚悟を決めるだけです。
貴社の情報システム部門・IT部門は、業務フローを作っていますか?
コラム更新情報をメールでお知らせします。ぜひこちらからご登録ください。
情シスコンサルタント
田村 昇平
情シス(IT部門、情報システム部門)を支援するコンサルタント。
支援した情シスは20社以上、プロジェクト数は60以上に及ぶ。ITベンダー側で10年、ユーザー企業側で13年のITプロジェクト経験を経て、情シスコンサルティング株式会社を設立。
多くの現場経験をもとに、プロジェクトの全工程を網羅した業界初のユーザー企業側ノウハウ集『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』を上梓、好評を得る。同書は多くの情シスで研修教材にもなっている。
また、プロジェクトの膨大な課題を悶絶しながらさばいていくうちに、失敗する原因は「上流工程」にあるとの結論にたどり着く。そのため、ベンダー選定までの上流工程のノウハウを編み出し『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』を上梓し、情シスにインストールするようになる。
「情シスが会社を強くする」という信念のもと、情シスの現場を日々奔走している。
著書の詳細は、こちらをご覧ください。