2021
2/12
情シスの役割で違和感
「そこはベンダーではなくて、情シスにやらせたいんです」
ある情シスの責任者に言われました。
従業員数が5桁を超える大企業です。今までお付き合いはなかったのですが、田村の書籍を読んでお声がけ頂きました。社内のプロジェクト管理研修の教材を作るお手伝いです。
最初、目次をすり合わせした際に「RFPの作り方」「ベンダー選定の方法」などを盛り込んでいました。ところが、
「ウチはベンダーが常に決まっているから、そこは省略してほしい」
と言われたので、そこを削って書きました。
「プロジェクト立ち上げと計画」「システム構想・要求整理」「要件定義」・・・など各フェーズでの重要ポイントと各部門の役割を定義していきます。
ところが、微妙に話が噛み合いません。説明していて、先方が腑に落ちない空気が漂います。
そこで、先方の過去のプロジェクトなどの経緯を詳しく伺い、納得しました。
情シスとベンダー、その関係性は会社の「文脈」によって異なります。
どう異なるのでしょうか?
常駐ベンダーと情シスの関係
もう10年以上も前の話ですが、田村は都市銀行(今のメガバンク)の開発ベンダーとして常駐していました。それも10年間、ず~っとです。(最後は、定年までこの現場という不安に駆られ、退社しました。。)
その現場は、常に3社の大手ベンダーが常駐しており、広いフロア全体が「ベンダー村」です。
毎年、予算編成の時期は、どの案件を3社に割り振るか、1カ月以上かけて、夜遅くまで議論していました。
ベンダーのコアメンバーは、この現場の経歴が非常に長く、その顔触れはずっと変わっていません。むしろ顧客よりも経歴が長く、「重鎮」みたいな人が多かった。
重鎮は、「システム知識」はもちろんですが、長く居るので「業務知識」にも長けています。顧客からも一目置かれています。
重鎮にも様々なタイプがいて、「誠実につくすタイプ」「自分のテリトリーを示し、その中でしか動かないタイプ」「傲慢になって、タメ口でやり合うタイプ」など等。
顧客側にも「業務部門」と「情報システム部門(情シス)」がありました。
業務部門は非常に優秀な方が多く、日本のトップ学歴の人が集まっている印象でした。要求の出し手ということもあり、自然と強力なリーダーシップを発揮します。
一方、情シスは「システムチームの親分」のような位置づけでした。メンバーはそれぞれ受け持つベンダーが決まっています。
ただし、社内ローテーションで担当は数年スパンで変わっていくので、ベンダーよりも経歴が短くなります。
受け持つベンダー側のリーダーが「傲慢タイプ」だった場合、情シスの担当者は大きなストレスを抱えます。ベンダーを制御できなくなるからです。
ベンダーは「素人情シスと話すよりユーザーと直接話した方が早い」となり、情シスは「置いてけぼり」になります。ベンダーからも社内からも相手にされなくなり、存在価値がなくなるのです。
しかし、ベンダーのコンタクトは乱雑で非効率に時間を奪われるので、業務部門は迷惑します。その不満の矛先は情シスに向かいます。
「もっとしっかりベンダーを管理しろ!何のための情シスなんだ!」
情シスも「もっと頑張らないといけない」とは思うものの、なかなか動くことができません。なぜでしょうか?
それは「業務知識」と「システム知識」の両方が一定レベルにないと、業務部門とベンダーとの間に割って入れないからです。
では、どうすればいいのでしょうか?
業務について、「要求整理」を業務部門に任せっきりにはせず、最初から主体的に関わります。積極的に資料作成を自ら担当し、業務部門に入り込みます。
システムについて、「要件定義」をベンダーに丸投げせず、情シスが主体的に指揮を執ります。主要ドキュメントに深くかかわり、情シスで作ったり、内部レビューで主体的にチェックしたり、ベンダーにも入り込みます。
つまり、情シスが「主体的」に業務部門とベンダーに関わっていくしかありません。意図的に接点を多く作り、対話する時間を増やします。
そこを「受け身」にするから、どんどん取り残されていくのです。
情シスがまともにコレやろうとすると、とても時間が足りなくなります。打ち合わせで一日が終わるし、メールも溜まるし、資料作成や資料チェックも溜まるし、タスクの多さに発狂しそうになります。
でも、、、やらないといけないんです。
それが「情シスの役割」だから。
大変ですよね?大変なんです。
ただ、この「発狂タスク」を乗り越えた先に大きな達成感があります。業務部門やベンダーでは味わえません。
自分が会社の仕組みを大きく変えている感覚があります。会社を通じて世の中を良くし、自己実現の歩みも感じます。その積み重ねが、情シスとしての大きな充実感に繋がるのです。
それが「情シスロマン」です(笑)
文脈によって情シスの役割は変わる
ベンダー選定からの新しいベンダーは、自社の業務を知らない状態からスタートします。だから、ドキュメントは全てベンダーに作ってもらい、ベンダーの業務理解を促進させます。その後、システムの「あるべき姿」を提案してもらうためです。
一方で、常駐ベンダーはすでに業務を知っている状態です。そのため、情シスがドキュメントを作成したり、「あるべき姿」を提案したりすることで、情シスが業務とシステムを掌握していきます。「大変」ですが、その後のプロジェクトをリードすることは「楽」になります。
いずれにしても、情シスが重要であることには変わりません。ただ、文脈によって、ベンダーとの「境界線」は変わります。
貴社の情報システム部門・IT部門は、ベンダーとの役割分担を適切に行い、存在価値を高めていますでしょうか?
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情シスコンサルタント
田村 昇平
情シス(IT部門、情報システム部門)を支援するコンサルタント。
支援した情シスは20社以上、プロジェクト数は60以上に及ぶ。ITベンダー側で10年、ユーザー企業側で13年のITプロジェクト経験を経て、情シスコンサルティング株式会社を設立。
多くの現場経験をもとに、プロジェクトの全工程を網羅した業界初のユーザー企業側ノウハウ集『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』を上梓、好評を得る。同書は多くの情シスで研修教材にもなっている。
また、プロジェクトの膨大な課題を悶絶しながらさばいていくうちに、失敗する原因は「上流工程」にあるとの結論にたどり着く。そのため、ベンダー選定までの上流工程のノウハウを編み出し『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』を上梓し、情シスにインストールするようになる。
「情シスが会社を強くする」という信念のもと、情シスの現場を日々奔走している。
著書の詳細は、こちらをご覧ください。