2022
7/05
そのERPは完璧だった
「受注も販売も経費も会計も、すべてカバーできます」
あるベンダー選定でプレゼンを行っています。
とても魅力的なERPシステム(統合基幹システムパッケージ)です。
「このERPは我が社のために存在する」とさえ思います。誰が見ても、このERPの「一択」だと感じました。
何といってもERPは、業務の上流から下流までのデータをすべて一元管理できます。サブシステム間連携に悩むこともなく、最初から統合されています。参照するデータベースも一緒なので、データ不整合もなく、リアルタイムで共有します。
完成された作品といえます。
プロジェクトメンバーには、すべてが完璧に見えました。
しかし、このERPを導入することは叶いませんでした。
何があったのでしょうか?
順を追うごとに後戻りできなくなる
プレゼンの後、プロジェクトメンバーは、経理部長に呼ばれました。
「さっきのは何だ?今の会計システムと経費システムを捨てるってことか?」
実は、会計システムは2年前にリプレイスし、経費精算システムも昨年入れ替えたばかりでした。
それぞれ、システム導入にはかなり苦労しました。基本的にパッケージだったのでカスタマイズは発生しませんでしたが、大きな運用変更を伴いました。
そのため、手厚いマニュアルを作成し、システム研修会を何度も行います。そして、今はようやく落ち着いて定着してきたのです。
手作業をなくすために、RPAでシステム間のデータ連携も自動化しています。
ERPを入れるということは、それらがすべて水の泡となります。怒るのも無理はありません。
そもそも、どうしてこのような状況に陥ってしまったのでしょうか?
この会社では、一連のシステム入れ替えの前に、システムの全体設計である「グランドデザイン」を行っていなかったのです。
各部署でプロジェクトを立ち上げ、そこに丸投げしてしまったからです。
各部署は、それぞれの現場要件をまとめ、それぞれで自分たちが最適と思うシステムを入れていくだけです。そこには、全体を考慮しない、個別最適されたシステムが入っていきます。
現場ユーザーがシステム導入を主導すること自体は、まちがっていません。そうすべきでしょう。
ただし、正しい順番で入れないと、後でとても大きな問題に発展します。
最初のシステムは「制約」がなく好き勝手に入れられます。ですが、順を追うごとに、周りのシステムが「制約」として増えていきます。最後は「制約」だらけです。
本来とれるべき選択肢が、自然に消滅しています。
その結果、最後は制約だらけのシステムを探すことになり、パッケージが合わず、本来不要なスクラッチ開発に行き着きます。または、壮大なRPAの集合体ができ上がります。
それは、後世に大きな「負債」を残すことになるのです。
グランドデザインとは、順番をデザインすること
箱に「砂」と「石」と「岩」を入れる順番を考えてみましょう。
最初に「砂」や「石」を入れてしまうと、どうなるのでしょうか?
一番大きな「岩」が入らなくなります。無理やりいれると、最初に入れていた「石」と「砂」が押しつぶされ、最後は箱が壊れてしまいます。
これは、システム導入でも同じです。
「岩」がERP、「石」がパッケージシステム、「砂」がRPAやツールなどです。
中途半端にパッケージやRPAを入れてしまった後では、もうERPの選択肢はありません。コスト的にムダが発生するというのもありますが、何よりも「現場の心情」的に不可能なのです。現場の今までの苦労を否定することになるからです。
どんなにマッチした優れたシステムも「石」と「砂」が敷き詰められた後では無力なのです。
極論すると、システムのグランドデザインとは「順番」をデザインすること。
その検討順序が「岩⇒石⇒砂」つまり「ERP⇒パッケージ⇒RPA」なのです。
順番を守るだけで、多くの選択肢を持つことができます。結果的にシステムの全体最適化につながります。
グランドデザインを担う部署
そして、、、このグランドデザインは誰が行うべきなのでしょうか?
部署を横断して、客観的に全体を設計する必要があります。そのため、エンドユーザーでは適任ではありません。
そうです。間接部門である「情シス」の役割です。
この一番重要な役割を他にゆずってしまうから、下請けになってしまいます。
もっと最初の、上流の計画から入り込むことで、全く違った展開になります。
貴社では、システムを導入する前にグランドデザインをきちんと行っていますでしょうか?
そして、、、それは誰が行っていますでしょうか?
コラム更新情報をメールでお知らせします。ぜひこちらからご登録ください。
情シスコンサルタント
田村 昇平
情シス(IT部門、情報システム部門)を支援するコンサルタント。
支援した情シスは20社以上、プロジェクト数は60以上に及ぶ。ITベンダー側で10年、ユーザー企業側で13年のITプロジェクト経験を経て、情シスコンサルティング株式会社を設立。
多くの現場経験をもとに、プロジェクトの全工程を網羅した業界初のユーザー企業側ノウハウ集『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』を上梓、好評を得る。同書は多くの情シスで研修教材にもなっている。
また、プロジェクトの膨大な課題を悶絶しながらさばいていくうちに、失敗する原因は「上流工程」にあるとの結論にたどり着く。そのため、ベンダー選定までの上流工程のノウハウを編み出し『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』を上梓し、情シスにインストールするようになる。
「情シスが会社を強くする」という信念のもと、情シスの現場を日々奔走している。
著書の詳細は、こちらをご覧ください。