2023
3/29
ざわつく現場
「すみません、異動になっちゃいました」
3月は異動の内示が出る季節。
ある現場では、基幹システム再構築プロジェクトの真っ最中ですが、プロジェクトマネージャー(以降、PM)が異動になりました。
プロジェクトメンバー全員が失意の中、特にショックが大きかったのが私を含めた情シスのPMOメンバーです。
これまでPMとPMOで一体となり、社内の要求を取りまとめ、ベンダーとも調整し、苦楽を共にしてきました。
それだけに、今後のプロジェクト運営に大きな不安が募ります。
他方、このざわつく中で、後任のPMの人が別の部署からやってきました。
その新任PMと話していると、少し前向きな気持ちになれました。
情シスPMOとして、この「PM異動」という逆境をプラスに変えていくには、どのように取り組むべきでしょうか?
PM異動のメリットとデメリット
まずは、PM異動のデメリットから整理してみます。
(デメリット)
・今までの知識、経験、関係性がリセットされる
・後任PMのキャッチアップに時間を要する
・一時的にスピードが落ちるため、遅延が発生する
ほぼ解説は不要ですね。いろいろなものがリセットされるので、二度手間が発生し、遅れに繋がります。痛すぎるのは間違いありません。
次にメリットを考えてみたいと思います。
(メリット)
①当事者として失われた客観性が得られる
②人間関係のしがらみがなく動ける
③「ごめんなさい」が言える
こちらについては、具体的に解説していきます。
●メリット① 当事者として失われた客観性が得られる
PMは、打ち合わせが多く、雑多なタスクに追われ、忙殺されています。
常に、バケツから水が溢れかえっている状態です。
重たいタスクほど、手を付ける余裕がなく、放置されがちです。
しかし、新しいPMはまだタスクを抱えていないため、余裕がある状態で判断できます。
そのタスクの負担が大きいとしても、重要であれば躊躇しません。
現場にどっぷり浸かっていると、PMも現場の問題に多く巻き込まれて、知らず知らずのうちに「担当者レベル」のタスクも多く抱えてしまいます。
ところが、外部からきたPMは「なぜそのタスクまでPMが抱えるのか?」と率直に投げかけてきます。
PMが忙殺され、PMとしての「管理者タスク」が後手に回っていないか、客観的な視点で確認ができます。
また、プロジェクトは過去の経緯があり、今に至ります。
過去に対立した部署とは関係が疎遠になったり、一度プロジェクトがOKを出したから変えにくくなったり、徐々に「なあなあ」になって会議を定期開催しなくなったりします。
ここで、経緯を知らない新任PMは強みが出ます。
新しいPMは現状を客観視できるので、プロジェクトとして盲点になっていた部分を「そもそも論」で突いてきます。
そして、モチベーション高く、あるべき姿に戻そうと実行していきます。
●メリット② 人間関係のしがらみがなく動ける
例えば、うるさい部署や声の大きな人がいて、システム要求が複雑化したり、改善検討が前に進まなかったりしている場合、新しいPMは真っ先にメスを入れてきます。
なぜなら、新しいPMは、すぐにでも功を立てるべく、即効性のある打ち手を探しているからです。
そこで目をつけるのが「人間関係」です。
ここは業務知識やシステム知識がなくても、すぐに動ける領域だからです。
気合いも入っているため、ハードでタフなネゴシエーションもひるみません。
新任の挨拶がてら、震源地に飛び込んでいきます。
場合によっては、問題となっているメンバーをプロジェクトから外すなどの大胆な手を打てるのも、新任PMならではと言えます。
また、ベンダーと仲良くなりすぎると、言いたいことも言いにくくなります。
しかし新任PMはまだ仲良くないので、客観的に指摘ができて、緩んだ緊張感をリセットし、関係性を正すこともできます。
ベンダーとも引き継ぎの挨拶で、ベンダー責任者と接点が持てます。
その場で、現在のベンダーの問題点を伝えて、ベンダー側をトップダウンで改革するチャンスに変えることができます。
●メリット③ 「ごめんなさい」が言える
過去にPMが全社的に「リリースはXX月」「予算はXXXXX円」と宣言して、承認されていたとしても、新しいPMには何の思い入れもしがらみもありません。
素直に「ごめんなさい」と言えます。
プロジェクトの状況を客観的に判断して「リリースをあと3か月延期させてほしい」「追加予算でXXXXX円かかります」「申し訳ございません!」と開き直って調整ができます。
もちろん、簡単に破ってよい約束ではありません。制約があってこそ、プロジェクトの緊張感を高く保ち、進めていける側面はあります。
しかし、忙殺されているがゆえに、知らず知らずのうちに現場への配慮が欠け、プロジェクトメンバーも追い込まれ、唯一の「一本道」だと信じ込み、破滅に向かっていることもあります。
そんな時には、新任PMの登場は、立ち止まって、現状を見直すきっかけと勇気を与えてくれます。
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ただし、プロジェクトのすべてを変えてしまってはいけません。
今までうまくいっている良いところは、もちろん継続していくべきです。
そのためには、情シスPMOが現状をたな卸しして、PMと「残すべきところ」と「変えるべきところ」をしっかりと合意することが重要です。
PM交代がうまくいくかどうかは、情シスPMOの動きにかかっています。
PM交代のターニングポイントをプラスに変える
冒頭の新任PMと情シスPMOは、何度も打ち合わせを重ねました。
そこで次の方針を決めます。
・プロジェクト体制の見直し(ネックとなっている人の交代)
・プロジェクトオーナーと週一の個別ミーティング
・ベンダー報告体制の見直し(ベンダー執行役員も同席)
・リリースを3か月延期
・追加予算の獲得と大きな仕様変更の実施
プロジェクトにとって、良い意味でのターニングポイントとなりそうです。
貴社のIT部門・情報システム部門のPMOは、「PM異動」をプラスに変えることができていますでしょうか?
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情シスコンサルタント
田村 昇平
情シス(IT部門、情報システム部門)を支援するコンサルタント。
支援した情シスは20社以上、プロジェクト数は60以上に及ぶ。ITベンダー側で10年、ユーザー企業側で13年のITプロジェクト経験を経て、情シスコンサルティング株式会社を設立。
多くの現場経験をもとに、プロジェクトの全工程を網羅した業界初のユーザー企業側ノウハウ集『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』を上梓、好評を得る。同書は多くの情シスで研修教材にもなっている。
また、プロジェクトの膨大な課題を悶絶しながらさばいていくうちに、失敗する原因は「上流工程」にあるとの結論にたどり着く。そのため、ベンダー選定までの上流工程のノウハウを編み出し『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』を上梓し、情シスにインストールするようになる。
「情シスが会社を強くする」という信念のもと、情シスの現場を日々奔走している。
著書の詳細は、こちらをご覧ください。