2023
4/26
引き継ぎは異動の風物詩
「一子相伝はダメですよ!」
ある現場では、情シスの中心メンバーであるAさんが異動になり、引き継ぎで大忙しの状況となりました。
Aさんのスケジュールを見ると、2週間がすべて「引き継ぎ」と書かれてあり、他の予定がブロックされています。
しかし、そこまで時間がかかるとは思えず、Aさんに確認してみると
・ドキュメントがないので、すべてを説明しないといけない
・複雑でわかりにくいから、口頭で一つずつシステム操作を説明する
とのこと。そこで
「すごく大変だと思うのですが、先にドキュメントを作った上で、口頭での説明をお願いできますか?」
とお願いすると、明らかに渋るAさん(苦笑)。
「他の人はAさんほど優秀じゃないので、1回聞いただけでは理解できないですし、忘れてしまいます。後からも復習できるように何とかお願いできませんか」
「Aさんから引き継いだ人もいなくなるかもしれません。Aさんのノウハウは宝なので、部として継承していきたいんです」
と、自分の足りないボキャブラリーを総動員して、何とか了承いただきました。
「今さらドキュメント化の重要性?」
と思うかもしれませんが、実際はドキュメント化が進んでいない現場は多いのです。
そして、厳しい言い方になりますが、これは情シス部長の責任と考えます。
なぜドキュメント化は進まないのでしょうか?
また、それは情シス部長にとって、どのような影響があるのでしょうか?
ドキュメントの重要性
まず「ドキュメント化」していないということは「属人化」してしまうということ。
属人化の一番の問題は、その人が急にいなくなった場合に、その業務が止まることです。
急病、事故、家庭の事情などで突発的に休みになると、その業務に誰も対応できなくなります。
もっと最悪なのは、突発的な離職です。今まで蓄積されたノウハウが永久に闇に葬られてしまいます。
つぎに「口頭のみの引き継ぎ」は何が問題なのでしょうか?
それは属人化の問題は解消されず、属人化の対象が移るだけだからです。
しかも劣化版です。
これら属人化のリスクを低減するためには、ドキュメント化が欠かせません。
ドキュメント化が進まない原因
では、なぜドキュメント化が進まないのでしょうか?
それは、普段は「まったく使われない」からです。
Aさんが健在なら、Aさんが対応するだけなのでドキュメントはまったく必要ありません。
わざわざ労力をかけて作っても誰も使わないことがわかっているから、作りたくないのです。日々忙しいのに、他を押しのけてまで作ろうとは思いません。
ただし、それは担当者レベルの考えにすぎません。
部長レベルではどのような観点になるのでしょうか?
部長の観点
部長は、短期的な日常業務よりも中長期的な組織への影響を考えます。
ドキュメント化について、次のようなメリットが該当します。
① 属人化を排除し、業務停止リスクを抑止する
② 繁忙期の業務量を負荷分散させる
③ ローテーションを可能にし、社員のスキルとキャリアパスを充実化
④ ノンコア業務をアウトソースし、社員はコア業務に専念できる
どれもIT戦略レベルで検討する内容です。
さらにDXに注力していくためにも、まずは足元を固める必要があります。
情シスの安定的な「環境」を作っていくための、ドキュメント化なのです。
ドキュメント作成は、担当者は手間がかかるだけなので、嫌がるかもしれません。
しかし、部長や管理者の立場であれば、それは口酸っぱく指示をしないといけません。
「担当者に嫌われたくない」などで遠慮しているようでは、情シスの未来に責任を持っているとは言えないのではないでしょうか。
仮に今まで作っていなかったとしても、異動による引き継ぎはドキュメント化を「挽回」する大きなチャンスなのです。
引き継ぎ完了!
「私のすべてのノウハウを盛り込みました」
Aさんは1週間かけて、全てをドキュメント化しました。
大変だったみたいですが、晴れやかな表情です。
内容を拝見しましたが、想定以上に立派で、細かい部分まで全て書かれていました。
本当に頭が下がる思いです。
Aさんはこのドキュメントをベースに、特に注意すべき点を口頭で説明していました。
これで思い残すことなく、後ろ髪をひかれることもなく、Aさんは新天地に旅立っていけます。
引き継がれる人たちも、かなり安心したようです。
そして、こっそりと大きく安心していた部長がいました(笑)
貴社のIT部門・情報システム部門は、部長や管理者の方がドキュメント化を口酸っぱく要求していますでしょうか?
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情シスコンサルタント
田村 昇平
情シス(IT部門、情報システム部門)を支援するコンサルタント。
支援した情シスは20社以上、プロジェクト数は60以上に及ぶ。ITベンダー側で10年、ユーザー企業側で13年のITプロジェクト経験を経て、情シスコンサルティング株式会社を設立。
多くの現場経験をもとに、プロジェクトの全工程を網羅した業界初のユーザー企業側ノウハウ集『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』を上梓、好評を得る。同書は多くの情シスで研修教材にもなっている。
また、プロジェクトの膨大な課題を悶絶しながらさばいていくうちに、失敗する原因は「上流工程」にあるとの結論にたどり着く。そのため、ベンダー選定までの上流工程のノウハウを編み出し『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』を上梓し、情シスにインストールするようになる。
「情シスが会社を強くする」という信念のもと、情シスの現場を日々奔走している。
著書の詳細は、こちらをご覧ください。