2023
5/24
ベテランAさん
「Aさんは頼りになりますね〜」
あるユーザー部門の方から言われました。
Aさんは、情シスの生え抜きで50代のベテランです。
運用・保守・ヘルプデスクを長年担当しており、幅広い知識を有しています。
「パソコンが不調だったので見てもらったら、一発で直った」
「クラウドストレージのアクセス権限をすぐに変更してもらった」
とのこと。
ただ、私にはそのAさんへの「賛辞」に違和感を覚えました。
以前、基幹システム再構築プロジェクトで、AさんがPMOにアサインされました。
ところがAさんはタスクを抱えたまま、まったく進む気配がありません。
コロナ禍のため対面で話すこともできず、電話も繋がらず、チャットを送っても返信が来ません。
定例会にはリモート出席するものの、毎週「対応中」と回答していました。
3ヶ月が経過し、いよいよマズイ状況となったとき、「体調不良のためしばらく休みます」と連絡を受けました。
残された情シスメンバーは、積み上がった課題に対処するため、全員が土日を問わず対応に明け暮れました。
全員が過労で体調を崩し、とても苦しかったのを覚えています。
その後、無事にシステムは導入され、ほとぼりが冷めた頃にAさんが笑顔で「元気になりました〜」と戻ってきました。
復帰後は、元の運用・保守を担当しています。水を得た魚のように、ユーザーとも電話口で楽しそうに会話をされていました。
そのAさんを、複雑な思いで見つめる私がいます(苦笑)
「体調不良で仕方がない」と思っていたのですが、昔を知る人に聞いたところ「以前も同じことをやってたよ」と言われました。
プロジェクトにアサインされると、タスクを大量に抱えたまま体調不良になり、ほとぼりが冷めた頃に戻ってきたそうです。今回と全く同じでした。
Aさんのプロジェクトアサインは失敗だったのでしょうか?
過去の経験が未来を縛る
私の経験上、50代の人は良くも悪くも、変わることができません。
これは、私がいろいろな現場で失敗し、非常に後味の悪い結末を見てきた私の結論です(何人もの皮肉な笑顔が浮かびます)。
運用・保守だけにどっぷり使ってきた人は、今さらプロジェクトを回すことはできません。システムに詳しいだけでは、立ち行かなくなります。
それは、PMOに求められるスキルが明らかに異なるからです。
それなのに、年齢の高さだけで、裁量をもたせて任せてしまいます。
その結果、
・現行踏襲で無難に済ませようとする
・現場と変革の調整を一切行わない
・ユーザーの言いなりで要求が肥大化
・システムが複雑になり、費用と期間が膨張
・ベンダーに会議運営と責任を丸投げ
最後にベンダーに無理を押し付けて、断られたところで手詰まりとなります。
そして、手詰まりを隠すためにヘルプデスクの対応に時間を割き、その場を凌ぐようになります。
本来であれば、周りに助けをもとめて、チームとして進めればよいだけです。
しかし、年配になると若いメンバーに教えてもらうのも抵抗があります。
なかなか「新しいスキルを身につけよう」というモチベーションも湧きません。
そして時間とともに状況が悪化し、最後はギブアップとなってしまいます。
これは、私にとってはデジャヴです。いろいろな現場で見てきました。
新しい風を吹かせる
その点、まだ若い方が可能性は高まります。
スキルが未熟でも、新たなスキルを獲得するモチベーションがあれば、育成ができます。
その際、社内にお手本がいないのであれば、外部のコンサルタントを一時的に入れて、OJTで指導させるのは有効です。
プロジェクトの生の事例で、ノウハウを叩き込んでもらえます。
コンサルの存在自体が、保守的な組織に大きな刺激(劇薬?)にもなります。
現実的な打ち手
つまり、情シス内で運用・保守メンバーしかいないとしても、ベテランに役割シフトを期待するのは「悪手」と考えます。
その人には、現状のスキルを最大限に活かして、今の役割を全うしてもらうのが現実的です。
ただし、向いていないからと好きなことだけ自由にやらせるのは違います。
役割シフトは求めないかわりに、守備範囲を広げてもらい、運用・保守の雑多なタスクは漏れなく引き受けてもらいます。
そこには運用改善、標準化やマニュアル整備など、一定の課題を与え続けて、パフォーマンスの向上を目指してもらいます。
そこで捻出した工数で、若手を中心に役割のシフトを進めるのがよいでしょう。
情シスのプレゼンス
人には「適材適所」がある。
これは誰もが知っていることです。
問題は「情シスには人員が限られる」ということ。
さらに「今いる人は運用・保守しかできない」ということ。
だから、非常に困るのです。
ここで情シスが「変わらない」、プロジェクトなど新規の役割から「逃げる」という選択肢もあるかもしれません。
しかし、楽になるかわりに、ずっと「下請け」という大きな代償を払うことになります。
大きなプロジェクトは、情シスにとってはチャンスなのです。
全社的に貢献することで、情シスの信頼度があがり、次のステージに行けます。
情シスのビジョンへの取り組み
そのためには、今の運用・保守だけにとどまっているのではなく、情シスの「コア」は何なのかを今一度、考える必要があります。
今後、情シスがどうなりたいのか。
10年後の情シスのあるべき姿(ビジョン)を描き、短期ではなく長期のロードマップで、ゆるやかにコア業務にシフトしていくしかありません。
年齢が高い人を無理やり配置転換するのではなく、世代交代を意識して、若手から変えていきます。
定年退職するタイミングで、そのタスクを手放す(アウトソーシング、あるいは根本的になくす)こともできるでしょう。
採用では、新しいコア業務をスキル条件として、人をとっていきます。
組織を意識的に「新陳代謝」していくということです。
短期では絶対に無理ですが、長期では必ず変わることはできます。
貴社では、情シスのビジョンに向かって、役割のシフトを進めておりますでしょうか?
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情シスコンサルタント
田村 昇平
情シス(IT部門、情報システム部門)を支援するコンサルタント。
支援した情シスは20社以上、プロジェクト数は60以上に及ぶ。ITベンダー側で10年、ユーザー企業側で13年のITプロジェクト経験を経て、情シスコンサルティング株式会社を設立。
多くの現場経験をもとに、プロジェクトの全工程を網羅した業界初のユーザー企業側ノウハウ集『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』を上梓、好評を得る。同書は多くの情シスで研修教材にもなっている。
また、プロジェクトの膨大な課題を悶絶しながらさばいていくうちに、失敗する原因は「上流工程」にあるとの結論にたどり着く。そのため、ベンダー選定までの上流工程のノウハウを編み出し『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』を上梓し、情シスにインストールするようになる。
「情シスが会社を強くする」という信念のもと、情シスの現場を日々奔走している。
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