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できる情シスPMOは、最後の「引き継ぎ」をしっかりやっている

2023

6/07

できる情シスPMOは、最後の「引き継ぎ」をしっかりやっている

PMO2年目のジンクス

「すみません、まだ対応中です。来週までにやります」

情報システム部のAさんは、30代の若手ですが、PMOとして頭角を現しました。

3年前に大規模な「基幹システム再構築プロジェク」ではじめてPMOを担当し、苦しみながらも去年リリースできました。

他部署との連携やベンダーとの調整も積極的にこなし、プロジェクトに大きく貢献します。

その実績が買われて、今度は別のプロジェクトにPMOとしてアサインされました。

周囲も大きく期待しています。

ところが、そのAさんの調子が思わしくありません。

Aさんの宿題が進まず、遅れが顕著になってしまいました。

実はこのパターン、PMOとして陥りやすいケースといえます。

Aさんの不調の原因は何なのでしょうか?

不調の原因

私はAさんと面談し、この1ヶ月のタスク状況を確認しました。

・新規プロジェクトのPMO、20%
・基幹システムの問い合わせ対応、50%
・基幹システムのベンダー調整、30%

つまり、新しくアサインされたプロジェクトは、たったの「20%」しか動けておらず、残りの80%は前回プロジェクトの運用・保守の対応に追われていたのです。

念のために補足すると、運用・保守チームの担当者3名への引き継ぎは、1年前に完了しています。

定型的なマスタ登録や設定変更は、別の担当者がやっています。

ユーザーからの問い合わせ窓口も、設置しています。

しかし、Aさん曰く

「でも、ユーザーから直接問い合わせがくるんです」
「イレギュラーな対応は私しかできません」
「ベンダーとの調整は、私がやった方が早いです」

と言い、さらには

「トラブル時は緊急対応なので仕方がないと思います」

とのこと。

果たして、それで良いのでしょうか?

PMOが陥りやすい罠

これは「PMOあるある」です。

PMOとしてシステムの要件定義など上流から参画していると、業務とシステムを体系的に理解し、誰よりも詳しくなります。

ベンダーとは、苦しいときから一緒にやってきたので、関係性も強固です。トラブル対応時は誰よりも早く調整し、解決できます。

だからこそ、ユーザーから頼られ、名指しで相談を受けます。

頼られると嬉しいので全力で対応すると感謝され、次回も個別指名する「リピーター」が増えていきます。

しかし、私はこの状況を良しとはしません。

厳しい言い方をすると「PMOで得た立場にあぐらをかいている」だけです。

頼られ、感謝されるのはもちろん嬉しいことです。

しかし、それは自己満足であり、1人で悦に入っているだけではないでしょうか。

組織レベルで考えると、基幹システムが1人に依存してしまうのは「事業継続リスク」です。

情シスとして「分業」ができず、部門内でのタスクの「平準化」もできません。

さらに、PMOとしてせっかくノウハウを得たのに、次のプロジェクトで積極的に活用しなければ、宝の持ち腐れです。人材への投資が実を結びません。

運用・保守フェーズに、いつまでも留まり続けている場合ではないのです。

そもそも、次のプロジェクトも、片足だけつっこんで対応できるほど簡単なはずはありません。

今のプロジェクトメンバーに迷惑をかけてしまうのではないでしょうか。

強い気持ちをもって我慢する

うまく引き継ぎができない理由はシンプルです。

引き継ぎの意識が弱いから。

「頼られると嬉しい」「感謝されると嬉しい」「自分しかできないタスクがあると誇らしい」という個人的な思いを優先しているからです。

しかし、それを続けてしまうと、PMOをやればやるだけ「担当システム」が増え続け、首が回らなくなります。

気づけば、どんな優秀な人であっても「ボトルネック」になってしまいます。

引き継ぎは、強い気持ちをもって行うことです。

自分がもういなくなる気持ちで、すべてを引き継ぐことです。

イレギュラーな対応であっても、引き継ぎ担当者を表に立たせて、自分は一歩引いてやらせること。

ベンダーとの調整も自分がやった方が早いとしても、任せて見守ること。

トラブル対応もフォローはするけど、主体は引き継ぎ者にやらせること。

そこをやらせないから、いつまでたっても自分の手から離れないのです。

引き継ぎ者から、覚える機会を奪っているだけです。

確かに寂しい気持ちはあるでしょう。

でもPMOには「新しい世界」が待っています。

そこに集中することで、もっと大きな貢献ができます。

もっと多くの感謝も待っているでしょう。

それが魅力であり、やりがいになるのではないでしょうか。

PMOは一つの場所にとどまるのではなく、チャレンジし続け、たえず自己成長していく種族ともいえます。

そのためには、PMOは「引き継ぎ」が最後の重要な仕事なのです。

引き継ぎが覚醒条件

「ようやくスッキリしました」

Aさんはその後、1ヶ月と期限を設定して、その全てを引き継ぎました。

裏でフォローはするものの、我慢して表には出ず、裏方に徹しました。

するとユーザーの個別指名がなくなり、ベンダー側も引き継ぎ者に連絡を入れるようになりました。

今では、Aさんの両手両足の鎖はなくなり、新しいプロジェクトでさらなる覚醒を迎えています。

貴社のIT部門/情報システム部門のPMOは、前回のプロジェクトに手足をがっちり掴まれたままになってはいないでしょうか?

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情シスコンサルタント
田村 昇平

情シス(IT部門、情報システム部門)を支援するコンサルタント。

支援した情シスは20社以上、プロジェクト数は60以上に及ぶ。ITベンダー側で10年、ユーザー企業側で13年のITプロジェクト経験を経て、情シスコンサルティング株式会社を設立。

多くの現場経験をもとに、プロジェクトの全工程を網羅した業界初のユーザー企業側ノウハウ集『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』を上梓、好評を得る。同書は多くの情シスで研修教材にもなっている。

また、プロジェクトの膨大な課題を悶絶しながらさばいていくうちに、失敗する原因は「上流工程」にあるとの結論にたどり着く。そのため、ベンダー選定までの上流工程のノウハウを編み出し『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』を上梓し、情シスにインストールするようになる。

「情シスが会社を強くする」という信念のもと、情シスの現場を日々奔走している。

著書の詳細は、こちらをご覧ください。