2023
6/28
選定あるある
「ベンダーが決まるまで半年かかると思います」
ある現場で「電子契約サービス」を導入することになりました。
情シスメンバーのAさんがPMOとしてアサインされ、プロジェクト計画書を作っています。
Aさんにスケジュールを確認すると、ベンダー決定まで「半年」かかるとのこと。
「そこまでかからないはず…」
と思った私は、WBSを確認したところ、すぐにその理由がわかりました。
なぜ半年もかかるのでしょうか?
基幹システムの選定プロセス
以前、Aさんとは「基幹システム導入プロジェクト」を一緒にやりました。
その時に、ベンダー選定プロセスをしっかりと引き継ぎました。
今回のWBSを確認したところ、Aさんはその時のプロセスを忠実に再現していました。
皮肉なことに、忠実に再現したがゆえに、長くかかる原因になっていました。
基幹システムでは、要求が複雑で、全社的に大きな業務影響もあります。
何よりも導入するまでに非常に大きな金額がかかります。
そのため「石橋を叩いて渡る」ステップで進めていくのは当然です。
(基幹システム選定プロセスの例)
1.システム企画書/プロジェクト計画書作成
2.ベンダーリストアップ
3.RFI作成&回答整理
4.トライアル検証
5.NDA締結&RFP作成/提示
6.提案書受領/評価
7.プレゼン評価
8.最終選考
基幹システム以外の選定プロセス
一方で、基幹システム以外の小規模なシステムやサービスでは、要求がそれほど複雑ではありません。
何よりも金額が圧倒的に小さくなります。
「数億円かかる基幹システム」と「月数万円のクラウドサービス」を、同じようなコストをかけて選ぶべきでしょうか?
安ければ安いほど、選定に費やした人件費と時間が割に合わなくなります。
あきらかに「too much」です。
特にSaaSは「スモールスタート」で実験的に始めることが多くあります。
このようなケースは「スピード」が重要であり、早めに手応えや今後の展望を確認したいのです。
金額が小さいので、もし問題が発生しても、他社に乗り換えることができます。
そのため、基幹システムを「MAX手順」とした場合、そうでないシステムは、そこから手順を「引き算」していきます。
手順は遵守するのではなく、選定までのストーリーで「再構築」していくことが重要です。
言い換えると、経営層や現場部門が納得する「最低限の選定品質」が担保されれば問題ありません。
合理的にアレンジする
今回の電子契約サービスの場合、「基本機能」は非常にシンプルで、どのサービスも差はありません。
一方で、現行システムとの連携は、ユーザーの利便性に関わるため、重要な評価項目としました。
(評価項目)
・現行の基幹システムとの連携
・既存画面への組み込み
・データベースから契約書へのデータ差し込み
そのため、トライアルを申し込み、実際にテスト環境に組み込んで、評価することにしました。
(今回の選定プロセス)
1.プロジェクト計画書作成
2.ベンダーリストアップ
3.RFI作成&回答整理
4.トライアル検証
5.見積書受領
6.最終選考
今回の手順は、RFPを省略しました。
そのため、NDA締結、提案書評価、プレゼン評価なども合わせて消滅します。
トライアルで実際のシステム動作を確認した上で、後は価格、という流れです。
重要なのは、基本をおさえた上でアレンジするということです。
そうしないと、最初に目にしたものに飛びつく「行き当たりばったり」となり、「選定」と言えない状況になってしまいます。
RFIやRFPを選定ストーリーの中で効果的に使い、時にそのノウハウを大胆に削っていきます。
その選定の背景を理解し「MAX手順」を「MIN手順」にアレンジしていく考え方が大切です。
最短距離を走る
「あっという間に終わりましたね」
WBSを引き直した結果、選定までの期間は3ヶ月に短縮されました。
しかも、トライアルで基幹システムのSandbox環境にサービスを組み込んで確認したため、そのまま本番環境に移送するだけです。
また、マニュアルもトライアルの際に作っておいたので、すぐに本番開始できました。
その後、Aさんは「生成AI導入プロジェクト」にもアサインされました。
今度は、合理的にアレンジして進めてくれると思います。
貴社では「選定ノウハウ」を確立したうえで、効果的に「アレンジ」できておりますでしょう?
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情シスコンサルタント
田村 昇平
情シス(IT部門、情報システム部門)を支援するコンサルタント。
支援した情シスは20社以上、プロジェクト数は60以上に及ぶ。ITベンダー側で10年、ユーザー企業側で13年のITプロジェクト経験を経て、情シスコンサルティング株式会社を設立。
多くの現場経験をもとに、プロジェクトの全工程を網羅した業界初のユーザー企業側ノウハウ集『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』を上梓、好評を得る。同書は多くの情シスで研修教材にもなっている。
また、プロジェクトの膨大な課題を悶絶しながらさばいていくうちに、失敗する原因は「上流工程」にあるとの結論にたどり着く。そのため、ベンダー選定までの上流工程のノウハウを編み出し『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』を上梓し、情シスにインストールするようになる。
「情シスが会社を強くする」という信念のもと、情シスの現場を日々奔走している。
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