2023
7/12
普段、業務で意識しないもの
「環境変化には何を書いてもいいんですか?」
A社では、IT戦略の立案に向けて奮闘中です。
情シス部長と副部長の2名が、頭から煙が出ています(笑)
お渡ししたテンプレートを苦労しながら埋めてもらっているのですが、その中でも困惑しているのが「環境変化の認識」という項目。
普段、業務の中では意識しない内容だからです。
「視野を広げて洗い出してください」とお伝えすると、さらに悩みが深くなったようです。
この「環境変化の認識」はなぜ必要なのでしょうか?
また、どのように書けばよいのでしょうか?
経営層の思考とリンクさせる
IT戦略において、実はこの「環境変化の認識」は必須項目ではありません。
正直、なくても成立します。
一方で、経営層とベクトルを合わせ、承認されないといけません。
この経営層からの指摘で多いのが「全体的な視点」からの考慮漏れです。
現場の延長線上にある「狭い視野」ではなく、業界の動向や世の中の動きなどの「広い視野」、言い換えると「環境の変化」に対して、我が社はITを用いてどう対応していくのか?
経営層は、そのような広い視野で考えたいのです。
この広い視野の経営層と思考をリンクさせ、IT戦略を「我が事」として認識させるためのトリガー、それが「環境変化の認識」なのです。
環境変化の作成ポイント
では、実際にどのように作っていけばよいのでしょうか?
ポイントは「自社に関係のある事だけを書く」ということです。
外部の環境変化は、挙げるとキリがありません。
無数にある変化の中から、自社のIT戦略に関わる部分だけをピックアップしていきます。
例えば、2〜3年前に必ず書かれたのが「コロナ影響」です。
私が関わった現場では、以下のような文言がありました。
(コロナ記載例)
- ・コロナ禍でXX産業全体の売上減少に伴うITコスト削減やベンダー契約の見直し
- ・コロナ禍に対応する非接触型のビジネス拡大(ウェビナー、電子納品等)
- ・テレワーク環境の整備、コミュニケーションツール活用
- ・テレワークによる全国のシームレスな協業
次に一般的な記載例を紹介します。
(社外環境)
- ・生成系AIの急速拡大
- ・法制度への対応(インボイス、電帳法、2024問題…)
- ・セキュリティ事故の急増
- ・人件費や原価の高騰
- ・IT業界の採用難、人材難
- ・顧客の要求水準の高度化
- ・XXXX業界構造の変化
- ・競合企業の台頭
- ・DX事例、競合サービスの増加
(社内環境)
- ・全国の店舗統廃合
- ・サーバー老朽化
- ・XXXXシステムのサポート期限切れ
- ・セキュリティ事案の発生
- ・カーボンニュートラル宣言
- ・グループ全社での基幹システム刷新
これらを、自社の状況や文脈に応じてアレンジしていきます。
最近は、どこのIT戦略でもトレンドになっているのは「生成系AI」でしょう。この技術をどう自社に適用していくのか。方針が問われています。
グローバル企業なら「世界は脱酸素社会・食料危機」「アジアは人口増加」「日本は超高齢化」なども文脈上、必要になるかもしれません。
これら環境変化を、具体的なプロジェクトにつなげるためのトリガーとして記載していきます。
注意点としては、ただ列挙するだけだと「それで何?」となってしまうことです。
その環境変化に対しての対策、結論、方向性を書くことがポイントです。
そのメッセージがあることで、後述するIT戦略へスムーズに繋げられるようになります。
最大の追い風
「社長が食いついてくれたのが一番大きかった」
A社の情シス部長と副部長はIT戦略を完成させ、経営層にプレゼンしました。
その際に一番盛り上がり、指摘を受けたのがこの「環境変化の認識」だったそうです。
前向きな意見を受け、さらに「攻めの施策」が追加されることになりました。
今までは、ここまで盛り上がることはなかったそうです。
社長を味方につけて、より全社的な活動がしやすくなったといえます。
その後、承認されたIT戦略をかかげて、全部署に説明してまわり、各部署からエースをアサインしてもらえました。
今は7本のプロジェクトを忙しそうに進めています。
今から3年後にどこまで変わっているか、非常に楽しみです!
貴社では、IT戦略において「環境変化の認識」をうまく使いこなせていますでしょうか?
コラム更新情報をメールでお知らせします。ぜひこちらからご登録ください。
情シスコンサルタント
田村 昇平
情シス(IT部門、情報システム部門)を支援するコンサルタント。
支援した情シスは20社以上、プロジェクト数は60以上に及ぶ。ITベンダー側で10年、ユーザー企業側で13年のITプロジェクト経験を経て、情シスコンサルティング株式会社を設立。
多くの現場経験をもとに、プロジェクトの全工程を網羅した業界初のユーザー企業側ノウハウ集『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』を上梓、好評を得る。同書は多くの情シスで研修教材にもなっている。
また、プロジェクトの膨大な課題を悶絶しながらさばいていくうちに、失敗する原因は「上流工程」にあるとの結論にたどり着く。そのため、ベンダー選定までの上流工程のノウハウを編み出し『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』を上梓し、情シスにインストールするようになる。
「情シスが会社を強くする」という信念のもと、情シスの現場を日々奔走している。
著書の詳細は、こちらをご覧ください。