2024
2/21
ユーザーから信頼を得られないPMO
「イイ人なんだけど頼りない」
「雑用はありがたいんだけど任せられない」
「マジメで頑張ってはいるんですけどね…」
ある現場の情シスは、「守りの情シス」から「攻めの情シス」となるべく、コア業務を見直しました。
そのコア業務の1つが「PMO」です。
そこで、これまでずっと「システム保守」を担当してきたAさん(30代後半)をPMOとしてアサインします。
Aさんはこれまで、何社ものベンダーとやりとりをしており、今回のプロジェクトでも、ユーザーとベンダーとの「橋渡し」を期待されました。
ところが、プロジェクトで頑張ってはいるものの、ユーザーからの評価がイマイチです。
先日もユーザーから「Aさんだと進まないから」と相談がありました。
この相談が情シス部長に直接いくのです。
Aさんはどこに問題があるのでしょうか?
雑務に追われ多忙な日々
Aさんは、情シスのPMOとして、ユーザーとベンダーの間に入り、調整を頑張っています。
ユーザーの質問はすべてエクセルに綺麗にまとめ、ベンダーに投げます。
ベンダーから回答がくれば、速やかにユーザーに共有してくれます。
ベンダーとの会議日程も、スムーズに調整しています。
会議の議事録も、その日にきちんとアップしています。
その他、ツールのアカウント登録や会議室の予約等、多くのタスクに追われ、毎日遅くまで残業していました。
それなのに、ユーザーの信頼を得られないのは何故なのでしょうか?
伝言ゲームのメッセンジャー
それは、Aさんが「メッセンジャー」だったからです。
伝言ゲームのように、言われたことを右から左に流しているだけです。
間に入っているAさんの「フィルター」がかかっていないのです。
例えば、ユーザーが「どうして3日遅れているのか?」とAさんに聞いても
「私は、ベンダーから3日遅れていると言われただけなので。原因は聞いていません。原因も聞いてみましょうか?」といった調子です。Aさんの判断が何も入っていないのです。
これでは、指示を待つだけの単なるロボットです。
あるユーザーは「人間RPAだ」と愚痴っていました。
むしろ直接やりとりした方が早く、Aさんが間に入るだけ遅くなっています。
いつも「すごい頑張っている感」を出していますが、そうではありません。
そもそも「伝言ゲーム」になっている時点で間違っています。
質問エクセルの内容をみると、細かい部分でお互いの質問が無駄に往復しています。これは間に入っているAさんが、それぞれ翻訳したり打ち返したりすることで、往復する回数は減らせるはずです。
ベンダーから変な回答が来たなら、ユーザーにそのまま共有するのではなく、Aさんが事前にブロックしてベンダーに突っ込むべきです。
ベンダーからの回答が遅れているなら、ユーザーに言われてから状況を確認するのではなく、自らベンダーに介入すべきです。
無駄に往復が多くなり、ユーザーとベンダーに余計な仕事を増やしているから、Aさん自身が忙しくなっています。「自作自演」といえます。
変なところで人がよすぎる
また、Aさんは「変なところで人がよすぎる」のも気になりました。
ある日、Aさんが近くでベンダーとオンラインミーティングをしていて、内容が聞こえてきました。
ベンダー「ユーザーは怒っていましたか?」
Aさん「いえ、内輪では笑いながら話していたので大丈夫です」
ベンダー「この不具合は部長まで話が及んでいますか?」
Aさん「いえ、まだ現場レベルの検討なので安心してください」
私は「なぜそれを言う?」と思いました。
ベンダーを変に安心させているだけです。
ベンダーの緊張感がない理由がわかってしまいました…。
会議が終わってから、Aさんに聞いてみました。
「ベンダーにウソをつくのが気持ち悪かった」ということで、全部正直に話してしまったそうです。
情シスの公平性
Aさんは、長年、保守でベンダーと接してきました。そこでベンダーから頼られることが心地よく、「ベンダー管理」という役割に自分の居場所を見出したのだと思います。
長年、ベンダーと付き合っていると情も湧き、助けてあげたいと思うのは自然なことです。私もそうでした。
ベンダーの懐に入り、本音を引き出し、支援することは大事なこと。
だけれども、ベンダーと仲良くなりすぎて、厳しいことが言えなくなるのは「PMO失格」ではないでしょうか。
ベンダー側のスパイのようになってしまい、ユーザーに不利益をもたらしているからです。
こうなってしまうと、むしろいない方がマシといえます。
情シスは、ユーザーとベンダーの橋渡しとして「公平性」は求められます。
しかし、本質的にはユーザーの味方であるべきです。同じ会社なので当然です。
そこを勘違いしているなら、情シス失格です。
そもそも、本当の意味でベンダーの助けにはなっていません。
きちんと品質を確保して、プロジェクトを成功させることで、そのベンダーも成長できます。ぬるま湯に浸からせるのは、ベンダーを内側から腐らせ、競争力を削いでいるともいえます。
情シスとしてのフィルター
情シスがPMOとしてユーザーとベンダーの間に入るなら、正しく「フィルター」となるべきです。
・ベンダーからの質問も簡単なものはその場で回答する
・ベンダーが変なことを言ったなら打ち返す
・ユーザーの立場で質問を先回りする
・緊張感がないなら引き締める
・ゆるい日程が出てきたら早める
・ユーザー側の内情を安易に伝えない
・ベンダーに言うべきことは言う
これらをユーザーの見えないところで、事前にベンダーに対して先回りすることが求められます。
ベンダーに対して厳しくなれないのは、自信がないからです。
Aさんは、まだPMOを1人でやらせるには早すぎたのかもしれません。
とはいえ、任せないと伸びないのも事実です。
そのため、PMO経験の豊富な「外部コンサルタント」に入ってもらうことにしました。いったんプロジェクトの最後まで伴走してもらい、そのコンサルタントからスキルトランスファーを行ってもらいます。
また、要所では情シス部長にもフォローに入ってもらい、後でフィードバックをする体制としました。
今は苦しいかもしれませんが、「過渡期」は踏ん張り時といえます。
PMO領域への投資
「PMO人材はなかなか難しいものですね」
情シス部長に言われました。
はい、その通りです。PMOは難しいです。
この後、Aさんが化けるかどうかは本人次第。コツをつかめば一気に覚醒するかもしれません。逆に、Aさんは適正がなく無理、となるかもしれません。他のメンバー含めてアサイン見直し、も可能性としてはあります。
どちらにせよ、情シスとしてPMO人材の育成には取り組んでいかないといけません。
ここでの苦労は「ノウハウ」として、情シスに蓄積され、横展開できるようになります。
積み上げていった「ドキュメント」も「プロセス」も、次回はもっとうまくやれると思います。
「初めて通る道」と「一度通った道」は違います。最初は失敗ばかりで不安が先行するかもしれませんが、PMOは「経験」が後から効いてきます。
この後、もっと重要なプロジェクトが控えています。その先行投資として、情シス全体でバージョンアップを進めていきましょう。
貴社のIT部門・情報システム部門は、PMO人材を育成できていますでしょうか?
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情シスコンサルタント
田村 昇平
情シス(IT部門、情報システム部門)を支援するコンサルタント。
支援した情シスは20社以上、プロジェクト数は60以上に及ぶ。ITベンダー側で10年、ユーザー企業側で13年のITプロジェクト経験を経て、情シスコンサルティング株式会社を設立。
多くの現場経験をもとに、プロジェクトの全工程を網羅した業界初のユーザー企業側ノウハウ集『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』を上梓、好評を得る。同書は多くの情シスで研修教材にもなっている。
また、プロジェクトの膨大な課題を悶絶しながらさばいていくうちに、失敗する原因は「上流工程」にあるとの結論にたどり着く。そのため、ベンダー選定までの上流工程のノウハウを編み出し『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』を上梓し、情シスにインストールするようになる。
「情シスが会社を強くする」という信念のもと、情シスの現場を日々奔走している。
著書の詳細は、こちらをご覧ください。