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経営層の理解がないと苦しい、情シスはトップ次第

2024

7/25

経営層の理解がないと苦しい、情シスはトップ次第

中小企業の情シス担当のAさん

「はじめまして、Aです」

ある知人に、情シスのAさんを紹介されて、3人で会食しました。

Aさんは、中小企業の情シス担当、40代の男性です。

Aさんは私の著書を取り出して、サインを求めてきました。嬉しいです。

急に、全力でお手伝いしたいと思いました(笑)

そのAさんと話をしていて、すごく向上心があり「プロジェクトもたくさんやりたい」「DXもやりたい」、ゆくゆくは「情シスを部にして、情シス部長になりたい」と熱く語っていました。

ところが、今やっているのは「ヘルプデスク」と「現行システム保守」が中心だそうです。

「会社でITプロジェクトは動いていないのですか?」と聞くと、

「経営企画室が連れてきたITベンダーと基幹システム再構築をやっている」とのこと。

でも、情シスは関わらずに、経営企画室が音頭を取って進めているそうです。

Aさんは、プロジェクトに立候補するも、やんわり断られたそう。

ちなみに経営企画室のメンバーは、ITには詳しくありません。元々、事業部にいた方で構成されています。

そして、そのプロジェクトがうまくいっていないようです。

受け入れテストで障害が多発し、今はベンダーを訴えるかどうか、変な方向に向かっています。

「私はどうすればいいのでしょうか?」

Aさんのため息が聞こえてきました。

情シスに期待していない事業部長

「チャンスじゃないですか!」

私はすぐに反応しました。

その傾いたプロジェクトを情シスが立て直せば、社内の株が一気に上がます。今後の情シスの拡大が見えてきます。

「そうなんですけど・・・」

Aさんの表情が曇ります。プロジェクトの立て直しに立候補したところ、上司である事業部長に言われました。

「情シスは今のITを維持してくれればいい。プロジェクトはベンダーに任せれば大丈夫だろ」

事業部長には、情シスを拡張するという発想が全くないようです。

聞けば、今後DXの機能を経営企画室に持たせる構想すらあるそうです。

それを聞いて、私は非常に腹が立ちました。

なぜ、やる気のある情シスに経験を積ませて、ノウハウを組織に溜めていこうとしないのでしょうか。

そもそも、なぜ情シスに理解のない人が上司なのでしょうか。

Aさんの選択肢

少し間をおいて、Aさんに提案しました。

① 情シスから積極的に提案し続け、長期的に少しずつ情シスを拡張させていく
② 転職して、理解のある情シス責任者のもとでキャリアを再構築する

通常は①を推します。しかし、会社の方針や上司の考えが変わるまで気長に待つほど、Aさんは若くありません。上司もしばらく変わらないようです。

期間がわかっていれば、終わりが見えていれば、まだ踏ん張ることはできます。

そうでなければ、毎日繰り返しの日々に、心が削られていきます。

昨日より今日、自分が成長したか分からないと、自分を守るために今を肯定しようとします。

それが積み重なり、現状に慣れてしまい、現状に適応してしまいます。

今のこの熱い気持ちも、いずれ消えてしまいます。

それが怖いのです。

だから、私は②を推しました。

今は昔と違って、転職しやすく、特にIT業界はどこも「売り手市場」です。

Aさんならどこでも行けるし、新しいキャリアを築くなら早い方がいい、という考え方もできます。

「やっぱりそうですよね、次を探します!」

Aさんは、晴れやかに答えました。

情シスの人材育成

ちなみに、ヘルプデスクや現行システム保守などの「守りのIT」を軽視しているわけではありません。

特に若いうちは、ヘルプデスクや現行システム保守を通じて、多くのユーザーと接して、様々な現場や業務を学んでほしいのです。こんなにも部署を横断して、多くの接点を持てるのは、情シスの特権だと考えます。

でも、ずっと守りだけをやるのはもったいないと思っています。その広範囲な知識や経験を、基幹システム導入や全社変革プロジェクトなど、より大きな課題解決に還元してほしいのです。

その方が情シスの価値を最大化し、会社により貢献できると思うのです。

逆を言えば、守りを知らない若い人に攻めだけをやらせても、まずうまくいかないでしょう。

若手からベテランまで、そのローテーションを動かしていくのが、情シスの人材育成だと考えます。

その配慮がないAさんの上司に腹が立ったのです。

経営層の理解があってこその情シス

あれから3年が経ち、Aさんから久しぶりに連絡をいただきました。

Aさんは、あの後すぐに転職し、今回、その会社の情シス部長に昇進したとのこと。

すぐにAさんにアポを入れ、会いにいきました。

その会社は、情シス部の担当役員がいて、ITを非常に重視しているとのこと。

社長が作った中期経営計画には、ITの重要性、今後の中心にDXを据える成長戦略が描かれています。

そのため、トップダウンでDX施策の指示が降りてきます。Aさんは転職早々、いろいろな未知のタスクを掛け持ちして、とても苦労しました。

それでも、今までやりたいことができずに、悶々としていた前職と比べると、雲泥の差があるそうです。

乾いたスポンジが水を吸収するかのように、いろいろなタスクを引き受け、ノウハウを蓄積し、頭角を現したのです。

「やはりトップがITに理解がないと、下で何を頑張っても無駄ですね」

Aさん、いやA部長は、表情が3年前とは別人のようです。明るく、自信に満ち溢れています。

Aさんの今後の「野心」を聞きながら、とても楽しい時間を過ごしました。

ちなみに、前職の会社は、基幹システムプロジェクトの2回目も失敗し、完全に迷走しているようです。

情シスを軽視しなければ、もう少し違った展開になったように思います。

貴社のIT部門・情報システム部門は、経営層の理解がありますでしょうか。

そして、後悔のないキャリアを送ることができていますでしょうか?

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情シスコンサルタント
田村 昇平

情シス(IT部門、情報システム部門)を支援するコンサルタント。

支援した情シスは20社以上、プロジェクト数は60以上に及ぶ。ITベンダー側で10年、ユーザー企業側で13年のITプロジェクト経験を経て、情シスコンサルティング株式会社を設立。

多くの現場経験をもとに、プロジェクトの全工程を網羅した業界初のユーザー企業側ノウハウ集『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』を上梓、好評を得る。同書は多くの情シスで研修教材にもなっている。

また、プロジェクトの膨大な課題を悶絶しながらさばいていくうちに、失敗する原因は「上流工程」にあるとの結論にたどり着く。そのため、ベンダー選定までの上流工程のノウハウを編み出し『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』を上梓し、情シスにインストールするようになる。

「情シスが会社を強くする」という信念のもと、情シスの現場を日々奔走している。

著書の詳細は、こちらをご覧ください。