2024
11/28
品質分析の時間がない
「急きょ、明日の朝に経営層にプロジェクト状況を説明することになりました」
「品質分析レポートを作れと言われました。助けてください」
ある情シスから相談を受けました。
プロジェクトでベンダーのバグが多発し、受入テストを行っている現場ユーザーの不満が溜まっているとのこと。
それを聞いた役員が、PMOである情シスメンバーを呼び出しました。
今は夕方ですが「明日の朝一に報告せよ」とのこと。時間がありません。
そこで、ChatGPTを活用して、即席の報告書をつくることにしました。
品質分析において、ChatGPTはどのように使えるのでしょうか?
課題発生状況の可視化
品質分析において、最も重要な情報源は「課題管理表」です。
この課題管理表を的確な切り口で「可視化」し、そこから次の行動につなげていくことが大事です。
そこで、まずはChatGPTに課題管理表をアップロードします。
(※セキュリティが確保された環境でない場合は、マスキングした上でアップロードしてください。)
次にプロンプト(指示)を入力していきます。
まず、確認したいのが、時系列での「課題発生状況」です。
月別の課題件数をグラフ化していきます。
・添付の課題管理表から、月別の棒グラフを生成してください
・グラフは、記入日の月で件数を集計してください
日本語が文字化けしたので、日本語フォント(ttfファイル)を読み込ませて、再出力を依頼します。
(ttfファイルは、インターネットからダウンロードできます。)
これで、タイトルや項目が正しく表示されるようになりました!
今度は、月別ではなく週別でグラフ化してみます。
・週は月曜日〜日曜日を集計の区切りとしてください
・グラフは青色としてください
キレイに出力されたと思いきいや、よく見ると下部の表示が「週番号」で表示されています。週番号で理解できる人は、果たしているのでしょうか…。さらに、週番号もすべて表示されているわけではありません。
こういうところが、融通がきかずにストレスを感じます。しかし、プロンプトが良くなかったと自分に言い聞かせ、再度指示を出します。
・グラフの下部のラベルは、省略せずに、すべて表示してください
ようやく、意図した通りのグラフが出力されました!
ここで、発生件数が「増加傾向」であれば、「品質強化」の対策が必要となります。
課題の残件数の可視化
次に、月別の課題の残件数を可視化します。
これを可視化することで、マスタースケジュールに間に合うかどうかを確認していきます。
・未完了の判定は、ステータスが「完了」以外のものとしてください
・集計単位は、1週間間隔とし、7/1、7/8、7/15のように月曜日としてください
・その日の時点で過去に発生して未完了となっている課題をすべて未完了件数として集計してください
この結果を見ると、残件数が増えている一方です。何かしら対策を打たないと、スケジュールが遅れていくことになります。
グラフによる可視化は、その説得力を強くします。
課題の内訳を可視化
今度は、課題の内訳を可視化していきます。
割合が大きなものが、強化すべき内容となります。
なんと、未完了の半分以上が「ユーザー確認待ち」ではないですか…。
これは、よくない。ベンダーに指摘する前に、きちんとユーザー側がまず対応すべきです。
未完了課題の「母数」を減らすことは、ベンダーとユーザーの双方の管理負担を軽減します。
残った課題にお互いが集中するためにも「ユーザー確認待ち」は速やかにクローズすべきです。経営層から現場に指示してもらうようお願いしました。
その上で、今度は「ユーザー確認待ち」も除いて、ベンダー向けにグラフを再出力しました。割合だけでなく、件数も表示してもらいます。
・グラフには、割合と件数を表示してください
この円グラフで「ベンダー対応中」が半分以上を占めていることがわかります。
この後は、どう展開していけばよいのでしょうか?
ベンダーと調整していくためには、この「ベンダー対応中」の課題をさらに、「サブシステム別」「業務分類別」「原因別」「発生源別」などの切り口で、グラフを作成・分析していきます。
その上で、強化すべきポイントを浮き彫りにし、対策についてベンダーと調整していくことになります。
特定課題をピックアップ
このプロジェクトでは、システムの動作速度が遅く、ユーザーの不満が大きくなっていました。
そこで、ChatGPTに「性能課題を抽出」するよう指示を出します。
なかなか良い感じに出力されました。
しかし、私の方でも確認してみると、2件、抽出漏れがありました。プロンプトの内容をもっと具体的にすれば精度が上がるかもしれませんが、まだ人間による最終チェックは欠かせないという印象です。
総評コメントを作成
最後に、この課題管理表の総評コメントを作ってもらいました。
それっぽいコメントが出力されました。
しかし、じっくり読んでみると、内容が一般論かつ抽象的です。
プロンプトの書き方が悪いのか、まだ生成AIの能力に問題があるのか、そのままでは使えない印象です。
ただ、ここまで依存しすぎるのもどうかと思います。最後は人間が総括し、コメントをまとめるべきでしょう。自身でまとめた後に、観点の「漏れ」がないかのダブルチェックとして使う分には有用だと感じました。
品質分析の選択肢の1つ
「ベンダーとの打ち合わせを設定するように」
冒頭で指示を受けた情シスメンバーは、出力されたグラフをパワーポイントに貼り付け、自身で考えたコメントを添え、資料を完成させます。
翌朝、無事に報告を終えました。
経営層からは、ベンダーと品質強化に向けて打ち合わせを設定するよう、指示がでました。その経営層の方も出席するそうです。
***
最近は、クラウドサービス(SaaS)の「プロジェクト管理ツール」が充実しています。
こちらの方がグラフ機能が多彩で、リアルタイムに表示されます。
何より自動で作成されるので、PMOの負担が軽減されます。これらを活用するのは、良い方法だといえます。
しかし、これらのツールには費用がかかります。
そのため、今もなお、Excelによる課題管理表を使っている現場が最も多いと感じます。
Excelなので作り込めば、グラフ化もできます。
PMOがきちんと工数を確保できるなら、エクセルにグラフシートを挿入し、定期的に管理していくべきでしょう。
一方で、PMOが十分に稼働できない場合や、突発的な分析が必要な場合には、ChatGPT等の「生成AI」は便利です。
プロンプトの書き方によっては、もっと高度な分析もできると思います。
情シスの皆さまは、ぜひ一度、生成AIで課題分析をしてみてください!
現在の生成AIのレベルが実感でき、活用に向けたインスピレーションも湧いてくるはずです!
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情シスコンサルタント
田村 昇平
情シス(IT部門、情報システム部門)を支援するコンサルタント。
支援した情シスは20社以上、プロジェクト数は60以上に及ぶ。ITベンダー側で10年、ユーザー企業側で13年のITプロジェクト経験を経て、情シスコンサルティング株式会社を設立。
多くの現場経験をもとに、プロジェクトの全工程を網羅した業界初のユーザー企業側ノウハウ集『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』を上梓、好評を得る。同書は多くの情シスで研修教材にもなっている。
また、プロジェクトの膨大な課題を悶絶しながらさばいていくうちに、失敗する原因は「上流工程」にあるとの結論にたどり着く。そのため、ベンダー選定までの上流工程のノウハウを編み出し『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』を上梓し、情シスにインストールするようになる。
「情シスが会社を強くする」という信念のもと、情シスの現場を日々奔走している。
著書の詳細は、こちらをご覧ください。