2025
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ユーザーの怒りが止まらない
「バグが多すぎて、やってられない!」
ある現場で、受入テストを実施中です。
数ヶ月前、要求機能テストでバグが多発しました。そのため、ベンダーが自主的にプロジェクトを止めて「品質強化」を行います。
プロジェクトを止めることは、ベンダーにとっては「赤字」を意味します。延びた分だけ、計算外の人件費がかかるからです。
それを自主的に申し出てきたので、とても感心しました。
そして、2ヶ月後に受入テストを再開します。
品質強化しただけあって、何とか要求機能テストは終わりました。
ところが、今度はシナリオテストでつまずきます。
システムエラーは発生しないけれども、動きがおかしい。
件数や金額が合わない、表示すべき項目が異なる、等々。
叩けば叩くほどホコリが出ます。
障害管理表を見ると「こんな品質では使えない」「本当にテストしたのか」「話にならない」と、ユーザーのコメントも荒くなっています。
「我々が『テスター』だと勘違いしていないか?」
と怒り出すのも無理はありません。
「もう一度止めて、ベンダーに品質改善させるべきだ!」
と息巻くユーザー。
この状況で、情シスPMOは、どうすべきでしょうか?
ベンダー品質強化の限界
現場のユーザーは、動かすとすぐにバグを見つけます。でも、品質強化してきたはずのベンダーには、気付けません。
この状況で、ベンダーに「品質強化しろ!」といって、解決するのでしょうか?
残念ながら、ベンダーの品質強化には限界があります。
なぜなら、ベンダーが解決できるのは「開発バク」や「製造バグ」だからです。システムでエラーが出たり、モジュール間で不整合だったり、設計書と異なる動きをしたりするケースは、ベンダーが自主的に発見し、修正できます。
しかし今回は、すでに2ヶ月止めて、品質強化を行っています。上記のような不具合はすべて対応済みなのです。
この状態で、さらに品質強化を強いても、効果は薄いでしょう。形式的な「テスト結果報告書」が提出されるだけです。
さらには、ベンダーは大幅な赤字となり、感情的な対立が深まります。積極的な提案はなくなり、言われたことだけしか、やらなくなっていきます。お互い協力していく姿勢が崩壊し、少しでも要望を出せば、「仕様変更」扱いとなっていくのです。
このような関係性では、成功も難しいでしょう。
断言しておきます。
プロジェクトで「感情的」な対立は、良いことは一つもありません。
受入テストの存在意義
現状、「開発バク」や「製造バグ」は発生しておらず、ユーザー目線での「要件バグ」が多発しています。
この要件バグは、ベンダーが自力で改善するのは不可能です。なぜなら、ベンダーは「業務知識」が乏しいからです。
業務フローと業務プロセスのイメージをもっている現場ユーザーでないと、気付けないことは多くあります。
だからこそ「ユーザー受入テスト」が存在するのです。
ベンダーが気付けない「要件バグ」を見つけることが、受入テストの最大の目的です。
言い換えれば、要件定義書に記載しきれなかった部分を見つけるということ。
記載しきれなかったベンダーにも責任はありますが、伝えきれなかったユーザーにも責任はあります。
要件定義書を拝見しましたが、記載がものすごく荒く、抽象的。このドキュメントを「検収」してしまったのは、ユーザー側の責任ともいえます。
一方的にベンダーが悪いとは言えないのです。
受入テストを止めるな!
では、どうするべきか?
「受入テストを止めない」こと。
ユーザーのストレスが大きすぎるのは、承知しています。ですが、最後までやりきることが最短なのです。
おそらく「狭く深く」掘れば、細かなバグはたくさん出るでしょう。でも、いま必要なのは、それではありません。「広く浅く」、致命的なバグを早期に見つけること。細かいバグは後回しです。
まず、シナリオテストの「ノーマルパターン」が動くようになること。これが最優先です。「見積もり」がバグだらけだからと、そこで止めません。その先の「受注」「売上計上」と続けていき、そこでバグが出ても止めません。最後の「請求」「入金」「会計連携」まで、すべてをやりきること。
そのノーマルパターンで発見したバグを、ベンダーは「最優先」で修正する。そして2周目から、もう少し細かく見ていく。
受入テストでは、この「広く浅く」で最低限を確保した後に「狭く深く」とステップを踏んでいく。これがお互いに手が止まることなく、現実的な「最速」なのです。
情シスが成功に向けてコーディネートする
ただし、このやり方には大きな副作用があります。
ユーザーに「強烈なストレス」が発生すること。
ユーザーは感情的になります。ベンダーに腹が立ちます。ベンダーのせいで、余計な手間が次々と増えるからです。
そこをケアするのが、情シスPMOです。
ユーザーの過度な負担を理解し、最大限にフォローしていきます。
バグの起票を「代筆」したり、ベンダーとの調整を「代行」したり、テストデータ作成を「肩代わり」したり、ユーザーがテストに専念できるよう、負担を和らげていきます。
また、ユーザーの反発が収まらない場合は、経営層からトップダウンで「広く浅くテストをやりきる」「協力してほしい」と発信してもらうよう、裏で働きかけます。
延期するのは簡単ですが、ベンダーとの対立は間違いなく深まります。
止めた期間、ユーザーの手が止まるのはもったいないし、ベンダーに効果の薄い自主対策をさせるのももったいない。
致命的なバグをユーザーが早期に見つけ、ベンダーが最優先で対処するのが、最短距離なのです。
もう、ユーザーとベンダーは同じ船に乗っています。
もちろん、状況によっては本当に止めた方がいい場合もあるでしょう。特にベンダー起因の製造バグが多発する場合は、いったん止めて、品質改善を要求すべきです。
そうでない場合、まずは「リスケしない」やり方を、感情論抜きで考えるべきです。
そこを主導するのが、情シスPMOといえます。
台風が去った
「受入テストの進捗率を毎週確認する」
プロジェクトオーナーである社長から、トップダウンで発信してもらいました。
同時に情シスからも、ユーザーに手厚いフォローを実施します。
ユーザーは、どんなにバグが出ようが、ひたすら受入テストを進めました。
もう…、ものすごい数のバグが出ました。
ベンダーは「平謝り」で、一心不乱にバグを修正します。
ユーザーと情シスPMOは、本当に大変だったと思います。
その結果、爆発的に発生したバグが、嘘のように収束していきました。細かいバグだけが残っています。
致命的な金額バグはもうありません。「ノーマルパターンは全て動く」というのは、大きな安心材料です。
その後、このプロジェクトは「再延期」することなく、無事にリリースできました。
貴社のIT部門・情報システム部門は、ユーザー受入テストでバグが多発したときに、どう対応していますか?
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情シスコンサルタント
田村 昇平
情シス(IT部門、情報システム部門)を支援するコンサルタント。
支援した情シスは20社以上、プロジェクト数は60以上に及ぶ。ITベンダー側で10年、ユーザー企業側で13年のITプロジェクト経験を経て、情シスコンサルティング株式会社を設立。
多くの現場経験をもとに、プロジェクトの全工程を網羅した業界初のユーザー企業側ノウハウ集『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』を上梓、好評を得る。同書は多くの情シスで研修教材にもなっている。
また、プロジェクトの膨大な課題を悶絶しながらさばいていくうちに、失敗する原因は「上流工程」にあるとの結論にたどり着く。そのため、ベンダー選定までの上流工程のノウハウを編み出し『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』を上梓し、情シスにインストールするようになる。
「情シスが会社を強くする」という信念のもと、情シスの現場を日々奔走している。
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