2021
4/02
失敗や事故が絶品のスパイス
「あの頃の苦労も、今思えば最高の笑い話ですね!」
10年前にご支援したプロジェクトでPM(プロジェクトマネージャー)を担当された方と再開しました。異動が決まったということで、もう散り散りになった当時のメンバーが集まり、少人数でささやかな送別ランチ会を開きました。
聞くと、なんと「社長」になられるということで、当時のリーダーシップを思い出して納得しました。他の皆様も今や大出世されていて、聞いていて嬉しい限りです。
非常におこがましいのですが、そのPMの方とは「戦友」だと思っています。
当時の失敗や事件は本当に辛くて、そのPMの方とは多くの苦労を共にしました。PMから朝の8時ごろに「不安メール」が来て、夜10時ごろから「愚痴メール」が来ることが日課。その当時は、毎日終電コースでした(今は3日と持ちません苦笑)。
お互いが背中を預けて、信頼関係が前提のもと、各自の役割を果たしていく感じでした。
だから長い間、お会いしていなくても、一瞬であの空気に戻れるし、気も使いません。いかにあの時の「秘蔵ネタ」を出して笑わせるか。そんな事ばかり話をするので、ずっと楽しい時間を過ごします。
あっという間にランチの1時間が終わり、泣く泣く解散しました。
このプロジェクト、今でこそ美談のように語れますが、当時はどうだったのでしょうか?
当時のプロジェクト状況
その方はPMで、田村はPMOでした。
当時は本当にいろいろ辛くて、逃げ出したいことが何度もありました。途方に暮れて、夜の公園でブランコに揺られて「なんかのドラマみたいで俺かっこいい」と現実逃避したりしていました(苦笑)。
ユーザーから大声で怒鳴られて、場が静まり返ることなど日常茶飯事。恥ずかしくて周囲と目を合わせられず、下を向いたまま自席に戻ったりしました。悔しくて席で泣いていると、やさしく声をかけてくれる周囲にさらに泣かされました。
ベンダーと喧嘩して口もきいてもらえず、メールを送っても無視されることもありました。重要な会議に自分だけ呼ばれず、仲間外れにされることもありました。
完全アウェイのベンダー本社に乗り込み、「PMをチェンジしてほしい」と社長に直談判したこともありました。それが後で現場にバレて、お祭り騒ぎになりました(苦笑)。
ベンダーに厳しい指摘をするとベンダーを敵に回すのですが、ベンダーをフォローすると、今度はユーザーを敵に回します。「ベンダーから裏金をもらっているのか」と皮肉を言われます。
「四面楚歌」という言葉を、身をもって体験できました(笑)。
マルチベンダー体制で、ベンダー間の交流もありませんでした。仕方なくベンダー合同定例会を開きますが、板挟みになり、それをマネジメントしないPMOが悪いと逆ギレされました。
最後のリリース判定では、田村が2回も「NG」を出しました。
それを宣言する時、田村の声は震えました。結局、6か月も延伸となり、ベンダーは数千万円の赤字になります。
ベンダーの社長に呼び出され「ウチを潰す気か」と激しく責められました。ユーザー本社にも呼び出され、役員の方たちに囲まれ、延伸になったことを厳しく追及されました。システム連携する関連部署にも平謝りして回りました。
決断の「重責」で数日間、眠れなかったことを覚えています。
こう書き出してみると、苦しいことしかありませんでした(苦笑)。とにかく最初から最後まで課題だらけで、PMとPMOがさばいてもさばいても、毎日終電でした(今は3日と持ちませんが苦笑)。
大きな課題に対してどう動くのか
プロジェクトは積み重ねです。積み重ねしかありません。
プロジェクトは課題の連続です。大きな変革を伴い、困難な課題がたくさんあるからこそ「プロジェクト」なんです。平時の1部署で対応できるなら「プロジェクト」なんか組んでいません。課題もない、楽な「プロジェクト」なんて、効果はたかが知れていますし、やる意味すらありません。
困難なプロジェクトであっても、課題を全て適切にさばき、解決できれば、成功します。大きな課題は、解決可能な小さな課題に分解して「階段」を上っていくだけです。どんなに解決が困難に思えても、適切な「階段」を描いて上れば、到達できます。
その階段を「設計」するのは、とても苦しく大変です。技術力やマネジメントの理論だけでは進まず、泥臭い現場調整や政治活動、人間力、信念など、持っているものを総動員して、解決への確率を積み上げていく作業です。複雑すぎて、いつも頭から煙が出ます。
でも、もしPMとPMOが「思考停止」したらどうなるのでしょうか?
プロジェクトは崩壊し、プロジェクトが死んでしまいます。
PMとPMOは大きな課題に対してどう動くのか?
が常に問われます。
簡単な課題やタスクは他のメンバーに投げてでも、大きな課題こそ自ら行動を起こさないといけません。それはPMとPMOにしかできないからです。
大きな課題こそ、解決した時、一気にプロジェクトが進みます。プロジェクトは「停滞」と「加速」の繰り返し。PMとPMOが大きな課題を解決するたび、加速していき、少しずつゴールに近づいていきます。
しかし、人間は心が弱いものです。絶望的な課題を目の前にして、メンタルが蝕まれていきます。
そんな時、PMとPMOは「達成感」と「大義名分」を考えてみてください。
苦労の末のゴールには、非常に大きな「達成感」が待っています。人生の充実感というか、自己実現欲求が満たされます。「世界の中心に自分がいる」「我が世の春を謳歌した」的な感じです(笑)。
最近気づいたのですが、この「達成感」を知っているかどうか。これが極めて重要です。
田村は、決してメンタルが強いわけではありません。些細な一言で傷つくし、翌日の大事な会議を控えて、眠れない夜もしょっちゅうあります。
ただ、他の方と違うことがあるとすれば、その「達成感」を多く知っていること。苦しい分、達成感が大きくなることを知っている。「苦しさ」の後には「大きな達成感」があるということを「パターン認識」しているだけです。だから状況を俯瞰して、今が苦しいのであれば、その先の楽しいことを想像して頑張れます。
また、苦しいプロジェクトほど「大義名分」が必要です。
「積年の課題を解決するために自分が頑張る」
「負の歴史を変え大勢を幸せにする」
などは、ここぞという場面で踏ん張る力を与えてくれます。関係者が笑顔になるところをリアルに想像すると、力が湧いてきます。人は自分のためだけでは限界がありますが、他人のためには限界をこえて頑張れるのです。
他人に軽んじられた、馬鹿にされた、恥をかかされた。そんな対人的なプライドは、もうどうでもいいのです。プロジェクトを何が何でも成功させる、それがPMやPMOが持つべきプライド。そのための「大義名分」であり、苦しみはただの「プロセス」です。
辛くなったら、その後の「達成感」に思いを馳せる。「大義名分」を思い出す。
心が折れそうになった時は、「状況の捉え方」を変えてみることが必要です(リフレーミング)。ぜひ試してみてください。
登り切った後の景色
大きなプロジェクトを乗り越えると、1つのパターン認識が形成されます。それは大きな財産となり、その後のプロジェクトを成功させやすくなります。
冒頭のPMの方は、その後もいくつものプロジェクトを成功させ、一気に上まで駆け上がっていかれました。
苦しいプロジェクトこそ、血となり肉となります。
いま支援しているいくつかのプロジェクトも、大きな課題に直面しています(苦笑)。
でもプロジェクトに課題はつきものですし、解決するしかありません。
道なき道を探しながら進んでいきましょう。一緒に踏ん張りましょう。
今はつらいですが、このつらさは「倍返し」のプラスで返ってきます。
この苦しい状況は「デジャヴ」であり、その後に訪れる「達成感」を田村は知っています。それをご一緒している皆様にも味わってほしい。
そして、このプロジェクトが成功すると、会社全体が大きく改善されます。多くの現場の課題が解決され、もっと付加価値の高い事業に取り組めます。まさに「大義名分」があります。だから、力も湧いてきます。
一緒に登り切った後の景色を眺めましょう!!
でも、、、毎日終電はやめましょう笑(今は3日と持ちません苦笑)。
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情シスコンサルタント
田村 昇平
情シス(IT部門、情報システム部門)を支援するコンサルタント。
支援した情シスは20社以上、プロジェクト数は60以上に及ぶ。ITベンダー側で10年、ユーザー企業側で13年のITプロジェクト経験を経て、情シスコンサルティング株式会社を設立。
多くの現場経験をもとに、プロジェクトの全工程を網羅した業界初のユーザー企業側ノウハウ集『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』を上梓、好評を得る。同書は多くの情シスで研修教材にもなっている。
また、プロジェクトの膨大な課題を悶絶しながらさばいていくうちに、失敗する原因は「上流工程」にあるとの結論にたどり着く。そのため、ベンダー選定までの上流工程のノウハウを編み出し『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』を上梓し、情シスにインストールするようになる。
「情シスが会社を強くする」という信念のもと、情シスの現場を日々奔走している。
著書の詳細は、こちらをご覧ください。