2022
6/10
パッケージプログラムは非公開ゆえの不安
「このベンダーが潰れたら業務を継続できなくなるのでは?」
あるプロジェクトで「パッケージシステム」を選定しているときのこと。
パッケージシステムは、基本的にプログラムを開示していません。ベンダーのノウハウが凝縮された企業秘密だからです。他のベンダーにコピーされ、流用されないよう、非公開となっています。
平時はそれで問題ありません。そのベンダーに保守してもらえばいいからです。
しかし、そのベンダーが仮に「倒産」したらどうなるのでしょうか?
プログラムが公開されていないので、ブラックボックスなシステムは保守ができなくなります。
つまり、そのシステムをつかった業務の継続が困難になるのです。
大手は倒産の心配はしなくてもいいですが、中小のベンダーはやはり心配になります。
ベンダー選定時において、中小のパッケージベンダーは、選択肢から外さざるを得ないのでしょうか?
契約の工夫で「万が一」に備える
中小のパッケージベンダーに対しては「契約の工夫」が有効となります。
具体的には2つあります。
① 個別契約に盛り込む
「ベンダーが倒産した場合、プログラムを開示し、ユーザー企業側で保守可能とすること」
つまり、平時は開示せずにベンダーの機密情報は保護しつつ、有事の時だけユーザーに開示する条件を契約に盛り込みます。
両社の合意のみでコストがかからないので、まずはこの方法を考えます。
② エスクロウ契約を結ぶ
仮にベンダーが倒産した場合をリアルに想像してみましょう。
ベンダーはどのような状況におかれるのでしょうか?
パニックの中、ユーザーにプログラムを引継ぎする余裕などないはずです。
そのベンダーと音信不通になり、どうにも立ち行かなくなる、という可能性もあります。
そこで、あらかじめ第三者にプログラムを預けておき、有事の際はその第三者からプログラムを受け取ります。
これが「ソフトウェア・エスクロウ」契約です。
この方式であれば、音信不通になっても対応可能となります。
実は、欧米では一般的に行われているサービスです。日本では、一般財団法人ソフトウェア情報センター(SOFTIC)がサービスを提供しています。
(弊社のSOFTICインタビュー記事はこちら⇒ SOFTIC様に「ソフトウェア・エスクロウ契約」について取材しました!)
上記の2つの方法でプログラムを入手できたとしても、すぐに解決というわけではありません。そのプログラムをメンテナンスできる人材を確保したり、または別のベンダーに保守を委託したりする必要があります。キャッチアップには時間を要します。
しかし、パッケージシステムが丸ごと消失してしまう「最悪のシナリオ」は回避できます。
相対的に「業務の復旧・継続」がしやすくなるのは、間違いありません。
契約の工夫でユーザーとベンダーはWin-Winとなる
パッケージシステムの導入を成功させる、唯一にして最大の要素が「選定」です。
いくら安かろうがプレゼンが魅力的だろうが画面がキレイだろうが、業務にフィットしていないパッケージは使えません。カスタマイズが大量に発生して、費用も納期も大幅に超過してしまうだけです。
自社の業務に最適なパッケージを「選ぶ」ことに尽きます。
そのための大前提が「選択肢」を多くもつこと。
感情的な不安というだけで、中小ベンダーが選択肢から外れてしまうのは大きな損失です。大手ベンダーだけ残してしまうと、ムダに過剰機能なシステムや高すぎる保守費用で、金銭感覚が狂った状態で選ぶことになります。
リスクを適切にコントロールすれば、安く必要十分なパッケージを調達することは可能なのです。
契約の工夫により、ユーザーはリスクヘッジができ、ベンダーは事業機会を得られます。両社にとってメリットがあるのです。
貴社のIT部門・情報システム部門では、中小ベンダーも含めて「選択肢」を広げていますでしょうか?
(追伸)
今回のコラムを執筆するにあたり、SOFTIC様にエスクロウ契約の取材をさせていただきました。契約のリアルな実務は、大変興味深い内容でした。
取材記事は下記リンクです。ぜひ、こちらもお読みください!
(SOFTIC様に「ソフトウェア・エスクロウ契約」について取材しました!)
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情シスコンサルタント
田村 昇平
情シス(IT部門、情報システム部門)を支援するコンサルタント。
支援した情シスは20社以上、プロジェクト数は60以上に及ぶ。ITベンダー側で10年、ユーザー企業側で13年のITプロジェクト経験を経て、情シスコンサルティング株式会社を設立。
多くの現場経験をもとに、プロジェクトの全工程を網羅した業界初のユーザー企業側ノウハウ集『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』を上梓、好評を得る。同書は多くの情シスで研修教材にもなっている。
また、プロジェクトの膨大な課題を悶絶しながらさばいていくうちに、失敗する原因は「上流工程」にあるとの結論にたどり着く。そのため、ベンダー選定までの上流工程のノウハウを編み出し『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』を上梓し、情シスにインストールするようになる。
「情シスが会社を強くする」という信念のもと、情シスの現場を日々奔走している。
著書の詳細は、こちらをご覧ください。